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『古見さんは、コミュ症です。』と、『コミュニケーション不全症候群』 [アニメ周辺・時事]

 『古見さんは、コミュ症です。』のTVアニメが始まりました。



 漫画をほとんど読まない私には珍しく、全巻買い揃えている作品です。

 アニメに先行して放送されていた実写ドラマ版は、ちょっと見ていられず、10分もたたずにギブしてしまいました。

 でもアニメ版の1話は、面白かったです。安心しました。
 今後、原作の特長の1つであるオノマトペ(と言っていいのか)も活かしてくれそうな演出で、そこも期待が持てます。


「コミュ症」と「コミュ障」


 さて、原作全巻持っているのに・今更なのですが、ぼくはアニメの1話目を見て、作品タイトルに含まれている「コミュ症」が、「コミュニケーションが苦手な症状」の略称であると再認識しました(表紙の折り込みに書かれているだろ)。

 「コミュ症」だけだと、得手にも不得手にもとれるので、考えてみるとちょっと変な略称ですが……

 でも個人的には全く違和感がない理由の1つは、「コミュ障」という言葉があるからでしょう。

 「コミュ障」とは、

ネットスラングとして使われている「コミュ障」は、他者とうまくコミュニケーションがとれないこと、コミュニケーションが苦手なことを意味しています。(コミュニケーション障がいは日本の国民病?!仕事における上手な付き合い方とは

 とあります。まあ、古見さんの「コミュ症」はこれですよね。
 この作品においては、コミュ症=コミュ障と考えて問題なさそうです。


30年前に書かれた『コミュニケーション不全症候群』


 ぼくがもう1つ、「コミュ症」という言葉に違和感を持たなかったのは、大昔に、『コミュニケーション不全症候群』を読んでいたからです。


コミュニケーション不全症候群

コミュニケーション不全症候群

  • 作者: 中島梓
  • 出版社/メーカー: ボイジャー・プレス
  • 発売日: 2017/12/25
  • メディア: Kindle版




 作者は中島梓(敬称略にします)。栗本薫名義で、『グイン・サーガ』や『魔界水滸伝』などの人気作も書いていた作家です。

 ぼくが持っているのは文庫版ですが、『コミュニケーション不全症候群』が最初に発売されたのは1991年。もう30年前か……

 『コミュニケーション不全症候群』を略すと、「コミュ症」でしょうから、それでぼくは『古見さんは、コミュ症です。』の「コミュ症」にも引っかからなかった。

 中島は、第1章の最初の文章で、「現代に生きている私たちは全員、『コミュニケーション不全症候群』である」と指摘しています。

 あ、ちなみに「コミュニケーション不全症候群」は中島の命名です。

 
「コミュニケーション不全症候群」の特徴


 中島は私たち全員が「コミュニケーション不全症候群である」と断じた上で、その特徴を次の3点にまとめています。

 1、他人のことが考えられない、つまり想像力の欠如。

 2、知合いになるとそれが全く変わってしまう。つまり自分の視野に入ってくる人間しか「人間」として認められない。

 3、さまざまな不適応の形があるが、基本的にそれはすべて人間関係に対する過剰反応ないし適応不能、つまり岸田秀のいうところの対人知覚障害として発現する。


 最近のSNSの話かな? とも錯覚しますが、これが書かれたのは30年前、Twitterどころかネットすら…の頃に書かれたものです。

 中島は具体例の1つとして、林・アグネス論争をあげていますが、そんなもの・もう誰も内容を覚えていないでしょう。

 でも、この特徴は最近の出来事にも当てはまります。
 ツイッターでは毎日のように、誰かが誰かを叩いているしね。死ねとも言うし。


「友達100人できるかな」の縛り


 もちろん、中島が指摘するコミュニケーション不全症候群の特徴は、古見さんの「コミュ症」には当てはまりません。

 むしろ古見さんは、想像力が働く=相手の気持ちをあれこれ考えてしまう、故に他人とのコミュニケーションが取れなくなっているキャラなので。

 数日前、TLで「ヒロインの男性恐怖症は惚れる前振り」みたいなツイート見かけたけれど、まあ古見さんのコミュ症話も「克服して友達(ついでに彼氏)を作る」ものだしね…

 それでも『コミュニケーション不全症候群』を出して、一銭にもなんねー記事を書こうとしたのには、理由があります。

 『コミュニケーション不全症候群』の第2章・第3章は「おタクについて」であり、その中で以下のような記述があります。ちょっと長いですが引用しましょう。

 (従来の「人嫌い」や「社交下手は)それはどういうタイプの社会にもいたような、適用の形のひとつにすぎないのであって、じっさいには必ずどういう形で適応しなくてはいけないということはまったくないから、たくさんの友達は持たないがごく少数の親しい友人ときわめて親しい交友をもつとか、極端に言えばまったく友達はいないがそれで別段本人も困難を感じていなくて平和に自分の世界に閉じこもって暮らしている、というような場合には、なにも社会のほうが「友達百人できるかな」の世界だけが正常であるというような思い込みでもってそういうタイプの人間を圧迫したり切ったりすることがなければ、そういう個体でもまったく問題なくごく平和に暮らしてゆけるのである。
 もっとも今の日本の社会では、そういう「やや適応していないが一応適用している」個体を、あまり好意的な目で見なかったり、あるいはもっと積極的にからかいの対象としたりすることがよくあるので、その結果として、「友達百人」タイプのみが正常であってそれ以外のものは異常、ないし異常予備軍、という構造が大変に出来上がりやすい。(カッコ内はブログ主)


 最後の「異常」あたりは、ひょっとしたら・若い人には実感しづらい部分があるかもしれないけれど、まあ当時はオタクがものすごい迫害されていたんだと、ぼんやりお考えください。この文章を引用した第2章は、この後宮﨑勤の話になっていくので。 


 この文章での「友達百人できるかな」は当然、 まど・みちおさん作詞の童謡『一年生になったら』を念頭に置いているものと思われます。

 TVCMに使われていたこともあり、ある一定より上の年齢層には呪詛のように頭に残っている童謡でしょう。

 面白いことに、作者は意図しておらず偶然でしょうが・『古見さんは、コミュ症です。』は、中島のこの文章と真逆のようにキャラ設定がなされています。

 古見さんは友達が数人でもいい、なんなら友達ゼロでもいいから快適に過ごしたい、ではなく「友達100人作りたい」フンフン! と思っているのです。

 本来、ヒロインがコミュ症の場合、「それでも心の通じ合う少人数の親友・あるいは恋人ができる」というストーリー分岐が一番あるのかな、と思います。

 しかし古見さんは友達100人作りたい。
 そこが、『古見さんは、コミュ症です。』の魅力の1つであり、軸の1本となります。
 

全員が変なので誰も変ではない


 古見さんは人付き合いが苦手なキャラですが、それでも「好意的な目で見られなかったり」「からかいの対象となったり」とはなっていません(むしろ崇められている)。

 これは、『コミュニケーション不全症候群』発刊から30年経って、社会が変わったからでしょうか?

 そうではなく、『古見さんは、コミュ症です。』の世界観が特殊なのでしょう。
 クラスメートはほぼ全員がヘンであり、だからこそ古見さんも「好意的な目で見られなかったり」「からかいの対象となったり」はしません。

 あと美人なので崇められている。

 奇異なメイクで浮いていた留美子ちゃんもクラスになじみ(キャラの「なじみ」ではない)、サンデーうぇぶりの最新回では『久保さんは僕を許さない』の主人公みたいな特性を持つクラスメートも、見つけられてアッサリ受け入れられます。


 違う…俺が大昔に知った「コミュ症」って、こういうことじゃないんだ(笑)

 『コミュニケーション不全症候群』自体は、結構重い内容の本で、中島自身は「陰鬱なカルテ」と評しています。30年後、同じ名前の「コミュ症」を冠したコメディ漫画が現れるとはね。

 アマゾンから、『コミュニケーション不全症候群』(Kindle版)の説明を抜いてみましょう。


おタク、ダイエット、女性による男性同性愛への関心などを扱い、変容する社会において危機的な状況におかれた自我のあり方を、自身も拒食症・過食症に陥り、また「真夜中の天使」を嚆矢としてやおいと呼ばれるジャンルを拓いた体験を踏まえつつ描いた問題作。刊行当時若者の共感と批評家からの絶賛を浴びたものの長らく絶版となっていたが、いま電子版として復刊される。


 古見さん、コミュ症だけれど、だからといって何かにのめり込んでもいないしな…

 しかし現在は、もはや「友達100人作らなくてもよい」はかなり広まっている認識だと思うんだけれど、どうしてこの設定にしたんだろ。
 そこが「面白い」と引っかかるところなんですよね。只野くんと心通わせるだけでいいはずなのに、と。

 まあこの設定が、物語の推進力になっていることも確かなので…


 長くなってしまった。同じ「コミュ症」を冠した、2つの作品のご紹介でした。


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