好感持てる作品だけれど、古臭いオヤジ像にどこまでついていけるか。『バケモノの子』感想・レビュー [アニメ周辺・時事]
遅ればせながら、『バケモノの子』見てきました。
ツイッターでこのような呟きを見たので、
事前に『悟浄出世』『悟浄歎異』も読みました。
ちなみにぼく、中島敦『山月記』のパロディ「ガンダム版『山月記』」を書いておりますので、よろしければ是非お読みください。
さて、それで感想なのですが。あ、見ていること前提です。ネタバレあります。
まず音と画面演出については、不満を持つ方は少ないのではないでしょうか。
オープニングのバケモノの描き方はすごくカッコ良かったし、九太の視点に合わせたスピーディーな移動、そして渋天街の様々な様子を短いカットで挟む見せ方は、非常に心地良いものでした。
序盤に頻出する「防犯カメラを通した九太」は、ぼくは「防犯カメラという機械にはずっと見守られているけれど、人からは孤立している」という意味を持たせた演出だと考えました。
だから最後、独りになった一郎彦も防犯カメラを通したカットで捉えられるのです。
そういや大人になった一郎彦、「マフラーで口元を隠してカッコつけたデザインになったな」と感じたけれど、終わってみれば「牙が生えない」疎外感を隠すためのものだったんですよね。
よく出来ているな…というかこの映画、無駄な場面がないんだよなあ。全てに意味を持たせている。
まあそれが、窮屈に感じる点でもあるんだけれど。
先に書いちゃうと、ほとんどのシーンに意味を持たせているし、さらに言えば懇切丁寧に説明している。
特に「ここまで説明するか」と笑っちゃった2つが。
1つ目が、『白鯨』の「鯨が自分自身」とか楓が意味を説明しちゃうところ。
そしてラストで、自分と同じ境遇である・ひょっとしたら自分もそうなっていたかもしれない一郎彦が鯨になるんだよ。
ご丁寧にありがとうございます!
まあ子どもが見るってことを考えたら、ここまで説明しないとダメなのかなあ。
もう1つは勿論、熊徹が心の中で生き続けることですよね。作った人の、親としての願望がダダ漏れだね!
あ、もう1つあったわ。「子への教育を通して大人も成長する」ってことも、あれだけ描写で説明しているのに、さらに宗師と猪王山の会話で言っちゃうんだよ。
個人的には批判する人の気持ちも分かるし、逆に「噛み砕いているから・子どもに見て欲しいのかな」って制作側の心情も透けるし、難しいところです。「俺に向けられた作品じゃないな」とは思うけれども。
さて音も、「映画館で見て良かった」と印象深いものでした。
特に虫が鳴く音や、高校生を殴る時のパンチの重そうな音。
それに、楓が九太に呼び出されて、家を出るシーン。
上記の内容に絡めて言うと、ここも分かりやすいよね。曇りガラスで、親の顔が見えないのよ。
ここで楓は、顔が見えない親からの束縛を振り切って、外に飛び出すわけです。楓はサブキャラなので、悩みだった親からの解放は、この程度の描写で充分だと思います。
この時、親に気づかれないようそっとドアを閉めるのではなく、音を立てるんですよ。確固とした決意の表明。
さてぼくはこの映画を、「このテーマって・細田さんがこだわって描きたいものなのかなあ」と思いながら見ていました。
『時をかける少女』、『サマーウォーズ』、『おおかみこどもの雨と雪』、そして『バケモノの子』。
多くの人は違うかもしれませんが、ぼくは公開が新しい順に細田作品が好きです。
で、『サマーウォーズ』では「親族の連帯」を描いた細田監督が、『おおかみこども』では孤立した家族が田舎で生きていく姿を描いた。
『バケモノ』は再び、孤立した人間が家族を構成していく物語です。
細田監督、そんなに孤立感あるのかなあ。ご自分に子どもができると、逆に孤立を描くようになるっていうのが、ちょっと不思議で。
「家族」にこだわりがあるんだろう、とは思うんだけれど。
それと行政みたいなんだけれど、「地域(みんな)で子どもを育てる」ところも共通しているね。
百秋坊、良い味出してた。
そして孤独な九太は熊徹と「親子関係」を構築していくわけですが、ぼくが感じるこの映画の一番の問題点は、「父親像」が古い・一昔前ってところですね。
偏屈・口下手・家事は出来ないガサツ。
そして上手に教えることができず、ホントにこどもに「背中で教える」んだよ!
頑固な職人の世界かよ。
今の父親ってそんなかあ? 俺も小学生の娘いるけれど…
……子持ちなのに、なんでアニメブログとかやっているんだろ…
気を取り直そう。実際に子育て中の監督さんの作品に出てくる「父親像」とは思えないんだよな。
こんな古臭くステロタイプのものではない、新しい父親像を提示して欲しかった。
作品はおおむね満足、不満はこの点くらいかなあ。
作品の根本に関わるところなので、この点が視聴後のモヤモヤに繋がっているんだけれど。
あ、もう1つ。実の父親のキャラクター設計が、巧の技なんだけれど。
何故かといえば。車ではなく自転車、ちょっと見える無精ひげ、そして住んでいる場所。
それと冒頭の・九太が「本家の跡取り」って向こうの親族のセリフで、どうしてあの夫婦が離婚したのか、想像できません?
まあただ、だったら九太と母親が不仲でないと、親族の誘いを振り切るには動機不足に感じるのですが…
ぼくが感じた難点はこのくらいで、「見て良かった」と思える作品でした。
そういや声優さんはまあ、多くの方が既にお気付きと思いますが、「役者さんを使うのがダメ」なのではなく、ただ単に上手・下手がいるってだけですよね。
「声優を使え」と頑固に言っている人でも、例えば今回の役所さんには不満ないでしょう。リリーさんも良かったなあ。
以上ですが、さて。
『バケモノの子』については、この記事では触れなかった点について、HIGHLAND VIEWさんと(HIGHLAND VIEWさんの『バケモノの子』感想はこちら)ツイッター上で意見を交わしました。
その会話をtogetterにあげていますので、もし興味を持っていただければお読みください。
細田監督の作品は、アニメ・映画の感想を書いたり読んだりするのが好きな人間にとっては、素晴らしい対象だと思います。
ホント、鑑賞後にスッキリはさせてくれないんだよな。
ツイッターでこのような呟きを見たので、
レイトショーで『バケモノの子』見て、先ほど帰ってきました。参考文献に中島敦『悟浄出世』があることを聞いたことがモチベーションをなったわけですが、想像以上に西遊記でした。というか前半は完全に『悟浄出世』と『悟浄歎異』のハイブリッドですよ。西遊記好きは絶対見た方がいい。
— HIGHLAND VIEW (@highland_view) 2015, 7月 25
事前に『悟浄出世』『悟浄歎異』も読みました。
ちなみにぼく、中島敦『山月記』のパロディ「ガンダム版『山月記』」を書いておりますので、よろしければ是非お読みください。
さて、それで感想なのですが。あ、見ていること前提です。ネタバレあります。
まず音と画面演出については、不満を持つ方は少ないのではないでしょうか。
オープニングのバケモノの描き方はすごくカッコ良かったし、九太の視点に合わせたスピーディーな移動、そして渋天街の様々な様子を短いカットで挟む見せ方は、非常に心地良いものでした。
序盤に頻出する「防犯カメラを通した九太」は、ぼくは「防犯カメラという機械にはずっと見守られているけれど、人からは孤立している」という意味を持たせた演出だと考えました。
だから最後、独りになった一郎彦も防犯カメラを通したカットで捉えられるのです。
そういや大人になった一郎彦、「マフラーで口元を隠してカッコつけたデザインになったな」と感じたけれど、終わってみれば「牙が生えない」疎外感を隠すためのものだったんですよね。
よく出来ているな…というかこの映画、無駄な場面がないんだよなあ。全てに意味を持たせている。
まあそれが、窮屈に感じる点でもあるんだけれど。
先に書いちゃうと、ほとんどのシーンに意味を持たせているし、さらに言えば懇切丁寧に説明している。
特に「ここまで説明するか」と笑っちゃった2つが。
1つ目が、『白鯨』の「鯨が自分自身」とか楓が意味を説明しちゃうところ。
そしてラストで、自分と同じ境遇である・ひょっとしたら自分もそうなっていたかもしれない一郎彦が鯨になるんだよ。
ご丁寧にありがとうございます!
まあ子どもが見るってことを考えたら、ここまで説明しないとダメなのかなあ。
もう1つは勿論、熊徹が心の中で生き続けることですよね。作った人の、親としての願望がダダ漏れだね!
あ、もう1つあったわ。「子への教育を通して大人も成長する」ってことも、あれだけ描写で説明しているのに、さらに宗師と猪王山の会話で言っちゃうんだよ。
個人的には批判する人の気持ちも分かるし、逆に「噛み砕いているから・子どもに見て欲しいのかな」って制作側の心情も透けるし、難しいところです。「俺に向けられた作品じゃないな」とは思うけれども。
さて音も、「映画館で見て良かった」と印象深いものでした。
特に虫が鳴く音や、高校生を殴る時のパンチの重そうな音。
それに、楓が九太に呼び出されて、家を出るシーン。
上記の内容に絡めて言うと、ここも分かりやすいよね。曇りガラスで、親の顔が見えないのよ。
ここで楓は、顔が見えない親からの束縛を振り切って、外に飛び出すわけです。楓はサブキャラなので、悩みだった親からの解放は、この程度の描写で充分だと思います。
この時、親に気づかれないようそっとドアを閉めるのではなく、音を立てるんですよ。確固とした決意の表明。
さてぼくはこの映画を、「このテーマって・細田さんがこだわって描きたいものなのかなあ」と思いながら見ていました。
『時をかける少女』、『サマーウォーズ』、『おおかみこどもの雨と雪』、そして『バケモノの子』。
多くの人は違うかもしれませんが、ぼくは公開が新しい順に細田作品が好きです。
で、『サマーウォーズ』では「親族の連帯」を描いた細田監督が、『おおかみこども』では孤立した家族が田舎で生きていく姿を描いた。
『バケモノ』は再び、孤立した人間が家族を構成していく物語です。
細田監督、そんなに孤立感あるのかなあ。ご自分に子どもができると、逆に孤立を描くようになるっていうのが、ちょっと不思議で。
「家族」にこだわりがあるんだろう、とは思うんだけれど。
それと行政みたいなんだけれど、「地域(みんな)で子どもを育てる」ところも共通しているね。
百秋坊、良い味出してた。
そして孤独な九太は熊徹と「親子関係」を構築していくわけですが、ぼくが感じるこの映画の一番の問題点は、「父親像」が古い・一昔前ってところですね。
偏屈・口下手・家事は出来ないガサツ。
そして上手に教えることができず、ホントにこどもに「背中で教える」んだよ!
頑固な職人の世界かよ。
今の父親ってそんなかあ? 俺も小学生の娘いるけれど…
……子持ちなのに、なんでアニメブログとかやっているんだろ…
気を取り直そう。実際に子育て中の監督さんの作品に出てくる「父親像」とは思えないんだよな。
こんな古臭くステロタイプのものではない、新しい父親像を提示して欲しかった。
作品はおおむね満足、不満はこの点くらいかなあ。
作品の根本に関わるところなので、この点が視聴後のモヤモヤに繋がっているんだけれど。
あ、もう1つ。実の父親のキャラクター設計が、巧の技なんだけれど。
何故かといえば。車ではなく自転車、ちょっと見える無精ひげ、そして住んでいる場所。
それと冒頭の・九太が「本家の跡取り」って向こうの親族のセリフで、どうしてあの夫婦が離婚したのか、想像できません?
まあただ、だったら九太と母親が不仲でないと、親族の誘いを振り切るには動機不足に感じるのですが…
ぼくが感じた難点はこのくらいで、「見て良かった」と思える作品でした。
そういや声優さんはまあ、多くの方が既にお気付きと思いますが、「役者さんを使うのがダメ」なのではなく、ただ単に上手・下手がいるってだけですよね。
「声優を使え」と頑固に言っている人でも、例えば今回の役所さんには不満ないでしょう。リリーさんも良かったなあ。
以上ですが、さて。
『バケモノの子』については、この記事では触れなかった点について、HIGHLAND VIEWさんと(HIGHLAND VIEWさんの『バケモノの子』感想はこちら)ツイッター上で意見を交わしました。
その会話をtogetterにあげていますので、もし興味を持っていただければお読みください。
細田監督の作品は、アニメ・映画の感想を書いたり読んだりするのが好きな人間にとっては、素晴らしい対象だと思います。
ホント、鑑賞後にスッキリはさせてくれないんだよな。
バケモノの子 絵コンテ 細田守 (ANIMESTYLE ARCHIVE)
- 作者:
- 出版社/メーカー: メディア・パル
- 発売日: 2015/07/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
ユリイカ 2015年9月臨時増刊号 総特集◎細田守の世界-『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』から『バケモノの子』へ
- 作者: 細田守
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2015/08/17
- メディア: ムック
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