新海作品への印象が変わるか


 新海誠監督の新作映画『君の名は。』を見てきました。

新海誠監督作品 君の名は。 公式ビジュアルガイド

  • 作者: 新海 誠
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/08/27
  • メディア: 単行本



 はじめに書いておくと、ぼくは新海作品には魅力を感じつつも、一種の忌避感というか、「嫌悪感」は言い過ぎだけれども、微妙な感情を持っていました。
 ちょっとこの感情を、他者に伝えるのが難しいのですが…

 ぼく、新海監督と同世代なんですよ。
 その同世代のおじさんがね、1・2作ならいいけれども、何作も近くて遠い淡い恋愛を描き続けることに、やっぱりちょっと悪寒を感じるわけですよ。「いつまで初恋を」とね。

 昔、富野×新海監督対談で、富野から「(『ほしのこえ』は)ナイーブさ、弱さが魅力になっている部分が強すぎます」と指摘があったけれども。

 だから例えば、今作で言うとタイトルがさ。

 『君の名は。』って、おっさんのぼくの世代でも(つまりは新海監督も)リアルタイムでは知らない、「真知子巻き」が流行したらしい、携帯・スマホなんか無かった60年以上昔のすれ違いメロドラマ『君の名は』を想起させるわけじゃない?

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 それと同じ題名を付けるのか…というね。

 本編でいうと、冒頭に「運命の赤い糸(鑑賞後だと組紐だと分かる)」が出てくるでしょ?

 「うわっ。そういうの堂々と描いちゃうんだ」と思っちゃうわけなんです。

 だから、『秒速5センチメートル』なんか、本当に切なくていい映画だと思うけれども、同時に「ティーンだったら夢中になっていた」と・完全に一歩引いて見ていたわけです。


そして今作品では

 さて、それで今回の『君の名は。』ですが。

 前半までは、かなり面白く見ていました。

 繰り返し胸を確かめるシーンもコミカルだし(胸で終りなんだよなあとは言うまい)、何より「入れ替わり」が判明してから劇中曲が流れて・テンポ良く2人の「入れ替わった日常」が描かれる盛り上がりは、軽い興奮すら覚えました。

 あとキャラクターでは、奥寺さんの造形が特に好みでした(CV・長澤まさみさんも良かった)。
 年上で・彼氏もいそうだけれど、年下の男の子にちょっと興味を持っている感じが、コケティッシュで大変良かったですね。
 ホラ最後、薬指のリングが光っても、何も不思議な感じや唐突感がないでしょ。そこまで含めて、良かった。

 あと背景の美しさは、新海作品では言わずもがなだね。

 さて物語が進み、瀧と奥寺さん、司は旅に出るわけですが、この「ないかもしれない記憶」を探す旅の描写も面白かった。

 1回のデートで切れたと思っていた奥寺さんが同行したり、その奥寺さんと司がガツガツ食っていたり(この2人がくっつくのかと思った)。


 そしてこの旅で、1つの事実が判明します。起承転結の「転」に当たる部分が動き出します。
 SFテイストでコメディタッチの恋愛ものと見せておいて、シリアスな事実が走り始めるわけです。

 ありきたり…というか、ほとんど事前情報に触れていなかった『君の名は。』は、ぼくのざっくりとした印象は「先達の『転校生』だよね」だったのが、そこにもう1つ「あ、タイムスリップもあったのか」と。
 ここら辺の魅力については、こちらのブログの記事が簡潔に書かれています。

 見終えた後から思うと、あれほど名前を忘れてしまったのに、死亡者名簿を見た時は都合良く覚えていたね、と思うけれども。そこはともかく。

 さらに期待は高まりました。先が読めないからです。
 これからどう展開するのだろう、『ゴースト』的な話になるのか、いや新海監督なら「一度も会ったことのない少女」を胸に宿しながら生きるエンドもありえるぞ…と想像しながら。

 そう、この少年少女は1度も出会ってない(実は三葉が会いに行っていたが)のに恋に落ちている、という物語なんですよ。

 ぼくはいつものように、「うわっおっさんがどれだけロマンチックな話を作っているんだよ」と思いつつも、そのひねくれた思いをねじ伏せるだけの展開があった訳です。

 ところがここから、ぼくにとっては雲行きが怪しくなります。


物語の方向はそちらに


 三葉を助ける、という方向に物語は舵をきります。

 え……
 予想できなかった「隕石が分裂してまちに落ちる」も、天災ですよね。大災害です。

 災害って、夢も希望も将来も・もちろん愛も、全てを飲み込むものでしょ。それを「愛と不思議な力をきっかけに回避する」は、少なくともぼくは、現在発表された作品においてはそれをフィクションとして割り切って楽しむことはできませんでした。



 見終わった直後に、腹立ちにまかせてこう呟いてしまったけれども。
 我ながら思慮に欠けた汚いツイートですなあ。まあこの程度の人間だから仕方ない。

 「いつまでも消えない恋」、有名な歌の歌詞を借りるなら・浅い夢を描き続けるのは、好き嫌いは別として理解できた。

 でもお互いの存在=半身を探す・つまりは激しい恋愛をしつつ、その恋愛と不思議な力によって災害も救いましたってされちゃうと…

 そうなるともう、ぼくとは「災害」の認識が違うのか、それとも「恋愛」への重きが違うのか、何にしろ急激に理解の範疇外になりました。

 実際物語としても、絶賛・肯定の方達でも、ここから先はやや退屈になったのではないでしょうか。
 
 2人の奮闘は、成功するしかないからです。

 発電所を爆破していいのか、とか、リアリティみたいな話はすでにぼくにはどうでも良くなっていました。

 災害ってこんなので回避できるものだったのか…

 
 ぼくは完全に醒めていました。


 ただ最後、2人が互いを認識する…まあロマンチックに書こうか、「出逢う」のかという点では、興味を持続して見ることができました。

 「タイトルからして『君の名は』って言って終るよな」と想像はできたのですが、新海監督はひょっとして『秒速』のパターンを繰り返すのか、ともふと脳裏をよぎりました。

 ですからその点のみにおいて、視聴意欲は持続していました。

 そういや最後に。
 終盤でちょっと笑ったのは、2人が1回、橋ですれ違うところです。
 
 あそこはやっぱり、『君の名は』の数寄屋橋のシーンに、敬意を払ったのかなあ。


翌日追記









 ツイッターではネタバレしないようにこのように書きましたが、早い話が隕石落下で何百人も亡くなる、ですよ。

 ミもフタもなく書けば。
 話の本筋だけで考えると、瀧(と三葉)が結果に干渉可能な原因で三葉が退場すれば良いわけで、交通事故にあったでも家が燃えて亡くなったでも問題ないわけです。

 それを隕石落下で多くの人が亡くなる=多くの人を救うにしたのって、何かなと思って。

 「このくらいの大きな事件じゃないと見せ場にならない」みたいな考えなのかな。

 まあ『雲のむこう、約束の場所』では、北海道を閉鎖しちゃっていたんで、案外大掛かりな仕掛けがお好きなのかな、とも思うけれども。
 そういや札幌での同作上映後インタビューでは、観客から監督に「札幌はどうなったんでしょう」って笑いを誘う質問が出たはずだけれど…。当時はシネコンではなく、単館上映だったよなあ。

 話がそれた。
 もしぼくが、あの「大災害だけれど人的被害はゼロ」でもOK・大絶賛だったとしても、あの設定のせいでやっぱり「玉に瑕」は生まれている訳でしょ。

 例えば発電所爆破してもお咎めなしなの? とか、控えめな性格のはずのあの子が犯罪と分かっていても手を貸すんだ(友情って素晴らしい!)とか。

 当然そんな不都合は承知していたはずで、それでもあの大掛かりな災害を描きたかった動機って、なんだったんだろうな。

 ぼくは実は、これまで書いたように「映画を盛り上げるため」はもちろん、現実の出来事を形を変えて描きたかったのかな、とも思ってはいるんだよね。

 だからこそ、理想的すぎる展開(結果)に醒めていったわけですが…
  








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