ラジオ番組「TOKYO SPEAKEASY」の富野監督×ドリカム中村正人さん対談文字起こし 3 [富野監督関係]
どうも。
『ガンダム』などを作った富野監督と・ドリカム中村さんが出演したラジオ番組「TOKYO SPEAKEASY」(8月21日放送)の文字起こし、その3です。
富野監督の最新作劇場版『Gのレコンギスタ』(略称『Gレコ』)シリーズのテーマ曲を担当したドリカム。そのため、対談の内容は多岐に渡っています。
これまでの記事は以下の通りです。
ラジオ番組「TOKYO SPEAKEASY」の富野監督×ドリカム中村正人さん対談文字起こし 1
ラジオ番組「TOKYO SPEAKEASY」の富野監督×ドリカム中村正人さん対談文字起こし 2
今回も、勝手に適宜中見出しを入れております。それと敬称略です。ではでは。
菅野祐悟さんの近況
中村:そうそう、俺聞きたかったんですけど、どうなってます(劇場版『Gのレコンギスタ』の)3本目。どうしますコロナ禍。
富野:よく分からない、全然分かんない。ただ、先週3本目と4本目と5本目のBGM、発注を菅野(祐悟)さんに発注して。
中村:菅野さん、お元気でした?
富野:元気。元気なんってもんじゃなくて。
中村:元気…(笑)
富野:本当にあの人は元気なんてもんじゃなくて、米津なんだぁー!! って人ですからね。
中村:お、いいですね。いいですね。
富野:そういう意味ではね、ちょっとびっくりした。それで、なんだっていうのが、ぼくと違ってて、「だって30秒聞けば分かるでしょ」。
中村:はい、おっしゃる通りです。天才です。
富野:だから、あの人をどうこうしようって思わないから、俺流に仕事させてくださいって締めたの。
「天才」が及ぼす影響
中村:それでもこの野郎って思っているのは、そういう天才、時代を越えるユーミンさんもそうですし、多分みゆきさんもそうだし、宇多田ヒカルちゃんもそうだし、やっぱりそういう天才たちってもっと影響を与えるんですよ。
それは今の人たちに一番受けているとかいう事象以上に、我々クリエイターの端っこ…端っこって言ったら菅野さんに怒られちゃうけどさ、菅野さんさえインスパイアするわけ。
富野:そうそう。
中村:定点観測させる。米津に比べてこうだから、この方法でいくよ…
富野:だから本当に先週久しぶりで『Gレコ』の作品のことを考えながら話をせざるを得なかったわけ。
だから富野さんも自分でも内心偉ぶりましたもん。つまりこの1年何もやってないのに、『Gレコ』って凄いな、いろんな事を考えさせる作品だな。だからこうしてくださいよっていう話が、菅野祐悟っていう才能に言えた自分っていうのが嬉しかったもんね。
中村:客観的に見れたっていうのは大変良かった。もちろん大変な方々、今も戦場で戦ってくださる方々がたくさんいる中で、我々こんなにのんびり飲みながら話している場合じゃないんですけど、ただ今日はいいか…
富野:というだけじゃなくて、この時間がなかったらね、それこそ人間、24時間ピンと張ってらんないもの。
中村:おっしゃる通り。
富野:だからこれで良いんです。
良いからこそなの。ぼくのつまり、理想があるわけよ。作り手だったらね、実を言うと秋元(康、このラジオ番組をプロデュースしている)さんみたいにずっと作り手風にしたかったんだけど。
中村:(笑)。
富野:それができてないのが悔しい、っていう。
中村:なるほどねコマーシャルいきましょう。
『惑星』を巡るやりとり
(ホルストの『惑星』が流れ始める)
中村:今日みたいに仕事抜きの時はあまりないので、僕の好きな曲を。監督と是非聞きたい曲がありまして。
富野:はい。
中村:今鳴っているやつなんですけど。これがですね、あのベルリンフィルなんですけど。ホルストの『惑星』という曲で。平原さんで有名になっちゃいましたけど。『Jupiter』って曲ですけど。これを一緒に聞きたくて。これご存じですか?
富野:(失笑)少しは知ってます。
中村:そうですか。これですね、まさに宇宙ってこういう音なんだろうな、と。まさにまだ人類が宇宙に飛び出てない頃に、ホルストって作曲家が作ったんですけど。
富野:そうですね。
中村:この中で『火星』も素晴らしいんですけど、この組曲の一番最初の。あらゆる映画音楽家の元ネタになっているような。組曲なんですけど。
この『 Jupiter』っていうのはね、まさにぼくらが少年時代に見た、あるいは『Gレコ』で宇宙が舞台になっていた時に、聞こえてた音だったんですよ。こういう音楽をぼくはいつか作りたいと思って、今聞いていただいて。中村こういうの作りたいんだよっていう、プレゼン(笑)。
富野:っていうよりも、すごく実言うとぼくにとって当たり前だから。
中村:これが?
富野:当たり前な、そう曲だから、びっくりしました。もう少し違うものって。そういう意味で言うとぼくやっぱり偏見があったんですよね、ドリカム対して。
中村:もうずっとそれ言ってるからね監督(笑)。もう偏見の塊だから、富野さん。本当に。
富野:『Jupiter』なんてのは当たり前に、宇宙そのものなんだから、いいんだよね。逆に、こういう記憶はぼくの中にあるからなんです、『2001年』が困っちゃったわけ。ええー、これでこられたか。
中村:ああ。そういう意味でね。
富野:そう。
ドリカム中村さん×富野監督。富野監督が「『2001年』こうきちゃったか」って、話の流れ的に「ツァラトゥストラは違うんだよな」ってことかな。
— 坂井哲也 (@sakaitetsu) August 21, 2020
ちょっとご不満な感じのお二人→仲直り
中村:でもなんかこの楽曲って、すごいテクノロジーも感じるんですよね。雄大な自然だけじゃないんですよ。
富野:分かりますよ。
中村:分かります?
富野:分かります。
中村:だからそれこそ巨大ロボットも見えるし、もうあらゆる『Gレコ』で登場する…
富野:だから広がりそのものが見えるし、もう1つ重要なことがあるのは、空間というよりも、水平線って言うのかな、地平線って言うのかな、ザーッと走っているのね。
中村:分かります。
富野:やっぱりそういう見事さっていうのはあるという意味では認めます。だから、嫌いな曲ではありませんが。
中村:あまり驚かなかったっていうこと?
富野:うん。
中村:もう。何言ってんの。
富野:さっき言った通り、最近モーツァルトの自然体に…
中村:もうちょっと驚いてくださいよ。中村こういう曲選んだんだ、いいなお前とかちょっと言ってくださいよ。
富野:あ、それはだって大前提だもん。当たり前。今更そのことでお前偉いねなんて言ったら、舐めてることになりません?
中村:(笑)。いやいやもう…分かりました。でも今日ぼくホルスト選んでたから、さっきモーツァルトの話おっしゃった時に、ちょっとビクッとしましたよ。そこかって。モーツァルトかって。
『ガンダム』だからみんなが語る
富野:それはね、自分の中でもなんですよ。
趣味性の問題みたいなことを考えていた時に、自分に一貫したものがなくって、結局一番みんな言ってるモーツァルトに戻らざるを得なかった自分っていうのは本当に嫌だったとかってこともあるわけ。
中村:でも総監督、みんなが言うからモーツァルトじゃなくて、モーツァルトだからみんなが言っているんじゃないですか。それはもうガンダムと一緒ですよ。
富野:はあー。
中村:巨大ロボットものだって、結局ガンダムに戻らなきゃいけなかった(富野監督の口真似?)。監督の周り、しかばね累々(たぶん死屍累々のこと)ですよ。ね? 同じこと言ってるでしょ?
富野:中村さんってさホント、プロデューサーね。すごいね。
中村:そんなことないでしょ(笑)。
富野:ホントお上手。
中村:お上手じゃない。カントク~。でも同じこと言ってますよ。しかばね累々ですよ巨大ロボットものの監督たちは。コノヤローって。言わないでしょうけどね。
でもちょっと言ってほしいんでしょ。
富野:言ってほしくない。
中村:絶対嘘だと思う(笑)。
富野:強がりじゃなくて、これを基準にしちゃいけないんだよね。そして、やはりぼくは、やっぱりなの。
大学以後の、二十歳以後のことで言うと、やっぱり戯作者になりたかったっていうすごくシンプルなその思考っていうものを身につけちゃったのに、結局巨大ロボットものしかやらせてもらえなかったっていう意味でテメエラぶっ殺してやろうかって、日本の映画界全部に対して思っている人間ですから。
中村:でも番組の始まり、ここに飲みに来る前になんか「巨大ロボット捨てて」何とかって言ってましたけど、何言ってんですか。
巨大な仮想敵を設定してしまう
富野:巨大ロボットのギミックを使う、使わせたら天下一品だろうっていう、それが縛りになっちゃって劇がで作れなくなってしまった、戯作をするということはそういうことではないんだよっていうことが分かった。
だから言ってしまえば、ぼくは未だにドストエフスキー読めないんだけれども、バルザック何かを読んで本でガックリ来る事あるんだけども、人を観察する能力は全くなかったっていうことを知らされて、本当に愕然とするのね。
中村:あの敵対するレベルの人が違いますから、監督の場合。
富野:ああそうか。
中村:それダメです。例えば吉田も今回の『G』でね、(歌詞に)シェイクスピア出してますけれども。
監督とシェイクスピアはきっと同じことを言っているんだろうってことで、吉田はシェイクスピアを出したんですけれども。
でもぼくちょっと今日監督に久しぶりにお会いできる…でもシェイクスピアもエンターテインメントやりたかったんですよね。エンターテインメントとして芝居の中に…
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富野:だし、もう一つシェイクスピアであったのは、自分が田舎者なんだけれども、ともかくロンドンにいる連中に少しはね、俺のこと偉いと思ってよっていうそういう下心があったっていうのは本当によく分かるわけ。
そういう意味では向上心を持っていたけど自分はこういうにしか劇を書けない。だから日常劇がものすごい多いシェイクスピア劇ってつまんないわけよ。ながーくって。
で、こういう風にしか書けない俺っていうコンプレックスをずっと持ってた人なんじゃないのかなって言うと、これまた袋叩きにあうかもしれない(笑)。
中村:でも今シェイクスピアを表現したのは、富野総監督の気持ちとちょっと被るところあるんじゃないですか。俺は巨大ロボットものしかできないなんて言われてたから。
富野:だから。
中村:(笑)
富野:ハッと気が付いた。別に自分がシェイクスピアと並んでなんて考えていませんからね。
中村:(笑)
富野:世界の文豪と。(文字起こし「4」に続く)
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