エルガイムのような展開になる予定だった『ザブングル』のラスト [富野監督関係]
マクラなしに。1週間ほど前、島津冴子さんが次のようなツイートをしていました。
??島津冴子??— 島津冴子公認FC Blue Moon公式 (@Saeko_BlueMoon) 2019年2月6日
1982年2月6日
戦闘メカ ザブングル放送開始??
オーデイションはエルチで呼んで頂いた
帰り際、テーブルに並んだ他のキャラ絵を見て
ディレクターさんに
「この役を受けさせてください??」とお願いした
それがラグ??
マネージャーに叱られたけれど
私はラグを演じたかったの?? pic.twitter.com/JuIMAcoVW6
??島津冴子??— 島津冴子公認FC Blue Moon公式 (@Saeko_BlueMoon) 2019年2月9日
戦闘メカ ザブングルのスタジオは狭くていつも満杯??
作品のテンポが速く、全員が声を張り上げるセリフが多く、ものすごく賑やか??
ゲストの先輩方が
「いつもこうなの?」
と驚かれること度々??
出演者の平均年齢が当時にしては若かったのよ??
みんながと~ってもパワフルだった??
37年前ですか。
この頃と言えば、富野監督の新作TVシリーズが毎年のように作られていて、それを不思議とも思っていませんでした。
けれども今考えると、当時の富野監督は劇場版ガンダムを作っていて、さらに劇場版イデオンも動き始めていた頃で、通常なら1年間の新作TVシリーズを作るようなスケジュールではなかったでしょう。
実際・ザブングルは当初、鈴木良武さんと吉川惣司さんの企画でスタートしており、監督も吉川さんがする予定でした。内容は宇宙SFもの。
富野監督が参加したのは放映4か月前。
ホテルに一晩泊って、骨格を固めたエピソードはこちらのサイト、またはこのブログに詳しいです。
ぼくは当時バッチリ視聴者層だったものの・リアルタイムでは見ておらず、後年レンタルビデオショップで借りて見ました。
今のように「TVアニメシリーズの全巻がある」のが当たり前の時代ではなく、その出始めだったように思います。
だからリアルタイムの感想で、「マクロスと同年代」「同じような三角関係の構造」と言われると、やはりリアルタイム視聴でないと得られないものはあるのか、と感じます。
君は走るか、俺たちゃ走る!
ザブングルのイメージは、一言でいうと「走る」だと思う。
(おそらく局や広告代理店向けの)PR企画書には「ユーモア・ロボットアクション」とか、「惑星西部劇」なんて言葉が躍っているけれども(『ロマン・アルバムエクストラ57』126P、以下ページ数のみの場合はこのムックを指す)、まあ現在から思い返すと、「走る」イメージしかありません。
ユーモアはまだあったかもしれない、でも西部劇は・砂塵吹く舞台だけで、個人的にはあまりしっくりこない。 あ、ティンプはまんま西部劇っぽい。
ロボットで西部劇と言えば、今となっては『ガン×ソード』を思い浮かべる人の方が多いのではないでしょうか。
ザブングルでぼくが「走る」をイメージするのは、『ザブングル・グラフィティ』の影響も強いのかもしれません。
「君は走るか、俺たちゃ走る!」とのキャッチも印象強いし、どこに掲載された一文か忘れてしまいましたが、「キャラクターも走り、2スタも走った」的な富野監督のコメントも良かった(これ、何に掲載されたコメントだっけ?)。
『ザブングル・グラフィティ』はファンに愛される小品、という感じがあり、ぼくも好きな作品です。
ファンじゃない人にお勧めできる作品じゃないけれど…
また「走る」に関連して、キャラの動きや演出も印象深いものがありました。
まあ富野監督本人も言っているので・問題ないだろうけれど、『未来少年コナン』をしようとしているな、と。
富野監督本人は例えば、
具体的な例では、「カリオストロの城」をまねろとっていって、まねしてもらったりもしたわけです。(128P)
「未来少年コナン」という作品をコピーするところから、練習を初めています。(ラポート『富野語録』73P)
と語っています。
この思いがあるからこそ、数十年後、G-レコの劇場先行公開を見た時に、ぼくは下記のように呟いたわけです。なぜ関西に行ったこともないぼくが大阪弁になっているのか、我ながら鬱陶しい限りですが……
最初のシーンを見た時に、全話スクリーンで見たいと思った。あと、『コナン』の躍動性に憧れた富野が、でもザブングルでは上手くいかず、けれど今・メカを使いながら躍動性肉体性を表現しきった。完璧や、完璧やで!— 坂井哲也 (@sakaitetsu) 2014年8月23日
印象深い次回予告
TVシリーズでいうと、次回予告も特徴的でした。
ぼくが見ているサンライズロボットアニメの中では、ボトムズ、ドラグナー、そして本作の次回予告が特に良かったと思います。
ボトムズ、そしてザブングルの次回予告を担当した声優は銀河万丈さんで、当時は「予告に関してはかなりやり残したような感想がありますね」(136P)と残しています。
また後年の古川さん・平野さんとの対談では、「楽しめそうなフレーズがあるとうれしくなっちゃったりしました」と振り返っています。
「銃火の果てに見たものは、父の仇のティンプ・シャローン。地の果てまでも追いかける、執念見せますジロンです。ラグとエルチはほっといて、ゴースト・タウンで大決闘」なんて、講談を連想していまいます。
元案では、ラストシーンはエルガイムと同じ展開だった
富野作品はこの後、TV版のザブングルがあり、『グラフィティ』があり、ダンバイン、エルガイムと続いていきます。
確か永野護さんだったと記憶していますが、エルガイムにはザブングルに再チャレンジしよう、という思いが富野監督にはあったと語っていたはずです。
確かに前述した三角関係のキャラ配置や、特にエルガイムの前半部分は、ザブングルと重なる部分があります。
そしてラストシーンも、実は関連がありました。
以下は、ザブングル時の島津冴子さん(ラグ役)のコメントです。
8月の段階のラストシーンは、ラグにとってもっと寂しい終末だったんです。エルチが洗脳されたままジロンと旅に出、ラグはサンドラットの仲間と残されてしまう。(134P)
実際では、ザブングルのラストはみんなで走る、「らしい」内容になりました。
しかし没案である「エルチが洗脳されたままジロンと旅に出、ラグはサンドラットの仲間と残されてしまう」は、エルガイムのラストそのままです。
エルガイムの後半はすでに『Z』制作が動いていたので、間に合わせるために「没案を引っ張りだしてきた」可能性もあります。
それともこの展開、富野監督にはよほど捨てがたい魅力があったんでしょうか。
富野監督自身は、下記のように語っています。
ですから、ラストシーンと言うことについては一番初めに頭にあって作ったシリーズだということです。(『富野語録』P110~111)
そりゃ頭にあったでしょう。
なにせザブングルの時から、同じようなラストを考えていたのですから。
よくある「キャラクターも生き物」的には、ジロンはそのラストを拒絶して走り出し、ダバは受け入れた、とも書けるのですが。
ぼくそういうの、好みなんですよね。
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