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8分間で、恋の芽生えから失恋までを描いた技術を堪能する~『ダンバイン』35話「灼熱のゴラオン」から [富野監督関係]




 どうも。またちょっと・お付き合いのほどを。

 昨年アニマックスで放送されたHDリマスター版のダンバインを、ゆっくりと見進めたりしなかったりしているのですが。
 先日35話「灼熱のゴラオン」を見たんですよ。

 エレ様とトルストールが恋に落ちる回ですね。

 全体としては、「核爆弾をバカスカ撃つなー」とか、ショウもマーベルも核撃たれまくっている中に防護服もなく突入していくんだ、とか全般的にはあまり好みじゃない回なのですが。

 それより、改めて見て。ビックリしたのは。

 トルストール登場するのが遅いな、と。

 だってこの回で初登場して、エレと恋心を通わせて、そして死んでご退場願わないといけないんですよ。

 本編は24分…OP・ED抜かすから21分か。少しでも早く、冒頭からトルストールを出して物語を転がしたいと思いません?

 ところが、ですよ。あ。ここから先、いちいち90秒引くのが面倒なので、OP込みの時間でいきますね。

 まず5分30秒過ぎで、トルストールが初登場します。

 エレ「あの軍人は人身御供か」

 しかしここから、黒騎士やゼットなんかの登場があり、なかなかトルストールが出ないのですよ。

 再登場は11分ですよ! 19分過ぎにはトルストール死んじゃうので、残りは約8分間しかないわけですが、ストーリー・演出・作画の合わせ技で、この8分間で・生まれる恋心→死亡までを描いてしまうわけですよ。

 やっぱりすごいな、プロはと。
 だって、エレとトルストールはこの時初めて出会っている、1からのスタートだよ。それなのに8分間で見せちゃうんだよ。


 ストーリーは次のように進みます。

 ソ連に戻り上を説得すると言うトルストール。

 12分過ぎ。エレ「トルストール・チェシレンコは信頼できる士官と見ました」

 エレは手を差し出し、トルストールはその手の甲にキスをします。

 まず、視聴者が「あれ、エレはこのイケメンに好意があるんじゃね?」と思わせるのが、この時のエレの表情です。

 凡百のアニメなら、頬を赤らめさせたりするのでしょうか。

 無論、そんな簡単な「記号」は出てきません。
 キャラクターは記号じゃない、生きているんだ、と言うわけでこの表情です。
 
ere.jpg

 なんだ、この顔は。
 説明が難しい…上手だよなあ。プロに向かって言うのもなんだけれど。

 この照れもトキメキも、感情を表に出すまいとする意志も、全てが表れているような。素晴らしい顔だよなあ。

 さてソ連に向かう道中、ショウが言いがかりに近い感じで…近い感じと言うか・オーラバトラーをソ連に持っていく気だな、と完全に言いがかりをトルストールにつけます。

 唐突に感じた視聴者も多いと思うのですが、このシーンには勿論意味があります。

 トルストールに疑いをかけるショウをなだめるのが、マーベルです。

 このシーンはマーベルがトルストールを庇うようでいて・もう1つ、視聴者に向けてトルストールがエレの好意を受けるに値する男性であることをマーベルが担保しているのです。

 これは、エレにはできません。
 何故なら恋をするとあばたもエクボ、エレがいくらトルストールを褒めたところで、視聴者は判断がつきかねるからです。

 だから同じ女性のマーベルに、トルストールという人間の誠実性を担保させたのです。

 ちなみにこの時のショウとの会話で、トルストールは「血を流すに値する人がいるのなら、私は…!」とか言っています。
 これで、トルストールもエレを憎からず思っていることが分かります。

 さてトルストールの人間性が明らかになれば、もうショウ・マーベルと、トルストールを絡ませる必要はありません。黒騎士とゼットの襲撃を受けて、3人はエレがいるゼラーナに引き返します。

 エレは、トルストールと一緒にソ連に行くと言い出して、ゼラーナで同行しているのです。

 反対するエイブ艦長を押し切って、エレにこんな行動を取らせることで、エレのトルストールへの好意はすでに浮き彫りになっています。
 女王自らがソ連に行くことに、それらしい理屈を吐いてはいましたが…

 被弾したトルストールのボゾンを見て、エレは格納庫に駆けていきます。
 
 迷惑をかけた、と謝るトルストール。

 エレ「敵の展開が早すぎたのです。ブリッジでニー達と打ち合わせをしましょ」

 トルストールの背中に手を回し肩を貸すエレ。

 このセリフの時の、エレ=佐々木るんさんのトーンもいいんだよなあ。
 「敵の展開が早すぎたのです」が、重い感じじゃないんですよ。

 「敵の展開が早すぎたのです、(そんなことより)ブリッジに行きましょう」みたいな、ありもしない「そんなことより」が聞こえてきそうなトーンなんですよ。

 その口調で、ソ連に行って高官を説得云々より、トルストールのことを考えているのが分かるんですよ。るんさん、どんなスキルですか!

 トルストール「そんな…歩けます」
 エレ「さあ」

 そこで仕上げに、密着して歩く2人を見たチャムに「あらー」と言わせれば完璧です。

 この回の目的は、「エレに失恋させること」です。
 ですので、ここまで行くとトルストールの役割は終了。無理にもう1度出撃し、19分30秒には黒騎士に落とされます。

 実は「何故好きになったのか」という部分が、両者ともゴッソリ抜け落ちているのですが、それを感じさせないキャラクターの心理の動きがわずか8分間で描かれています。

 素晴らしいプロの技を堪能しながら観賞しました。

 あまり良い印象を持っていない回でも、見返すと色々と感じる点があるなあ。



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