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『月がきれい』で主人公の安曇小太郎(ハネテル)くんが読んでいる太宰作品一覧(※最終話まで) [アニメ周辺・時事]

 アニメ『月がきれい』では、主人公の安曇小太郎くんは太宰が好きらしく、劇中のモノローグでは何回か太宰の小説を引用しています。

 太宰は「暗い」などのイメージがもたれがちだと思いますが、読むとなかなかに面白いので、このアニメを通してちょっとでも太宰が読まれれば良いのではないでしょうか。

 なぜならそれが、本当のメディアミックスだと思うからです。

 かくいうぼくも、全作品を読んでいるわけではないですが、『月がきれい』にちなんで甘酸っぱい感じのおススメ太宰作品は『思い出』です。

 青空文庫で無料で読めます
 理由は、過去にツイートした通りです。






 どうです、甘酸っぱいでしょう。

 では、『月がきれい』に出てくる太宰作品を、分かる範囲で書いていきます。
 劇中で出ているのに漏れている一文あったら、教えてください。


1話


1、「生きている事。ああ、それは、何というやりきれない息もたえだえの大事業であろうか。」

 『斜陽』から。有名作ですね。個人的には出だしの「スウプ」という単語が印象深い。
 なお『斜陽』は流行語になるほどの現象を起こしたが、一方で志賀直哉には手厳しく批判されました。
 それに反論し、太宰は『如是我聞』の中で、

或る「老大家」は、私の作品をとぼけていていやだと言っているそうだが、その「老大家」の作品は、何だ。正直を誇っているのか。何を誇っているのか。その「老大家」は、たいへん男振りが自慢らしく、いつかその人の選集を開いてみたら、ものの見事に横顔のお写真、しかもいささかも照れていない。まるで無神経な人だと思った。

 などとこき下ろしています。


2、立花さんから薦められる『女生徒』
 これについては過去にツイートしています。





3、「幸福感というものは、悲哀の川の底に沈んで、幽かに光っている砂金のようなものではなかろうか。」

 これも『斜陽』ですね。

 1話目で出てきた太宰作品は『斜陽』『女生徒』。



2話

1、「人は人に影響を与えることもできず、また、人から影響を受けることもできない。」

 『もの思う葦』の1つ「或る実験報告」から。
 「或る実験報告」の章は、この1文で全てです。


2、「笑われて、笑われて、つよくなる。」

 『HUMAN LOST』から。この作品は、発表後も長く小説集に収められなかった作品のひとつです(ちくま文庫『太宰治全集2』450Pより)。
 『月がきれい』に出てくると何だか、青春を言い表しているような一文の印象を受けますが、この小説は病院(太宰いわく「脳病院」)に入っていた体験を元にした小説です。

 全集には初版と訂正版が掲載されていますが、他作家の悪口を実名で書いている訂正版の方がぼくは好きです。




 2話目で出てきた太宰作品は『もの思う葦』『HUMAN LOST』。



3話


1、「少くとも恋愛は、チャンスでないと思う。私はそれを、意志だと思う。」

 小太郎くんが図書館で手にした本。表紙にも書かれていた通り『チャンス』です。ただ、



 と思うのですが、どうなんでしょうね。

 ちなみにこの1文は、冒頭に出てきます。

 なお、太宰は続けて、


「きれいなお月さまだわねえ。」なんて言って手を握り合い、夜の公園などを散歩している若い男女は、何もあれは「愛し」合っているのではない。胸中にあるものは、ただ「一体になろうとする特殊な性的煩悶はんもん」だけである。


 と書いています。よりによってこの回に『チャンス』もってくるとは、スタッフの皮肉かな(笑)

 3話目で出てきた太宰作品は『チャンス』。



4話


 4話目は告白の返事待ちやら修学旅行やらで、太宰の太の字も出てきませんでした。文学少年も女性の前には…

 4話目に出てきた太宰作品は無し。



5話


1、「他の生き物には絶対に無くて、人間にだけあるもの。それはね、ひめごと、というものよ。」

 1話目に続いて、『斜陽』からです。
 このセリフは、主人公・かず子の母が、かず子に向かって言うものです。

 ちょっとした言い争いをした際、かず子は「出て行きます。私には、行くところがあるの」と口走ってしまいます。その後時間をおいて、母がかず子の恋を心配した言葉です。

 この会話には続きがあります。母は「ああ、そのかず子のひめごとが、よい実を結んでくれたらいいけどねえ」と願いを伝えるのです。
 その「ひめごと」が結ばれたか否か。かず子本人は「誇り」を持つ結末になるわけですが…

 なお今回は、ハネテルくんが『舞姫』を持つシーンがあります。この回のタイトルが漱石の『こころ』だったので、明治の文豪つながりで『舞姫』にしたかのかな、と勝手に思っています。

 5話目で出てきた太宰作品は『斜陽』。



6話


1、「人間は、恋と革命のために生れて来たのだ」

 また『斜陽』ですね。ハネテルくん、よく「太宰は言った」などとモノローグをかましていますが、あまり太宰作品を読んでいないのではと疑念を持ち始めました、ぼくは。

 今回のフレーズは太宰も気に入っているのか、『斜陽』の中に2回出てきます。

 主人公のかず子は考えます。
 戦時中、大人達が最も愚かしく忌まわしいものと教えたのが「恋と革命」だった。しかし戦争が終って大人を信用しなくなると、「恋と革命」こそが「最もよくて、おいしい事で、あまりいい事」だったのではないか、と。大人はそれを知っていたから、青い葡萄だと嘘をついた、と。

 今話の前半はハネテルくん浮かれているから、このフレーズに親しみ持てるのかな。

 6話目で出てきた太宰作品は『斜陽』。


 なお6話にしてやっと? タイトルが太宰作品になりました。『走れメロス』。

 確か星新一さんだったと思うけれど、『走れメロス』は太宰にしてはテーマが明確過ぎてあまり面白くない旨を書いていました。

 私も同感です。もっともだからこそ、学習教材としては扱いやすいのでしょうが…



7話


 7話目は嫉妬したりイチャついたりで忙しく、太宰なんか出る幕なし。

 7話目に出てきた太宰作品は無し。



8話


1、「愛は、この世に存在する。きっと、在る。見つからぬのは、愛の表現である。その作法である。」

 『思案の敗北』から。
 上記の言葉は、異性間だけの愛ではなく、親友や母親にも及んでいます。

 『思案の敗北』はサクっと読める短編です。随筆…になるのかな。青空文庫にもあります。5分程度で読み終えます。


 ちなみに『月がきれい』の今回のタイトルは、森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』でした。

ヰタ・セクスアリス

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  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2012/09/27
  • メディア: Kindle版


 同書からとると、タイトルはラテン語の「VITA SEXUALIS」。「性欲的生活」という意味だそうです。

 同書の紹介記事には、「『題名だけは知っている本ランキング』があればかなりの上位に位置するだろう」とありますが、ご多分に漏れず私も未読だったので、今回を良い機会と思い読んでみました。

 主人公が性に目覚めてから童貞を喪失するまでの、やや自伝的のような短編小説なのですが、なかなか面白く読めました。

 明治42年の作品ですが、「吉原は彼等の常に夢みている天国である」なんて一文があったり、「袋とじ」のような本が昔からあったり、闇鍋(盲汁・めくらじると書かれている)を楽しむ様子があったりで、現在とあまり変わらないこともあるのだなと感じました。

 あと、生息子(きむすこ・この小説で初めてこの言葉を知った)時代は全くと言ってよい程女っ気がなく、代わりに男に迫られるシーンが何回か出てくるのは意外でしたね。
 そして童貞喪失後は、ドイツ留学のさいに矢鱈とモテエピソードを羅列しているのも、はしゃいでいるようで面白く読みました。

 最後に、『月がきれい』を見て恋テロとかツイしたりニヤニヤしている皆さん(特にイケメンでもない男性)に、『ヰタ・セクスアリス』から次の一文を引用して贈りましょう。


こういう本に書いてある、青年男女の naively な恋愛がひどく羨ましい、妬ましい。そして自分が美男に生れて来なかった為めに、この美しいものが手の届かない理想になっているということを感じて、頭の奥には苦痛の絶える隙ひまがない。


 8話目に出てきた太宰作品は『思案の敗北』。



9話


 今回は、小太郎くんのモノローグでの太宰作品の引用はありませんでした。

 ありませんでしたが、小太郎くんの書棚が映し出されました。
 純文学少年の本のラインナップは、右から見えた順番に


注文の多い料理店

生まれ出づる悩み

風立ちぬ

人間失格(太宰)

堕落論

惜別(太宰)

斜陽(太宰)

グッド・バイ(太宰)

パンドラの箱(太宰)

お伽草紙(太宰)

斜陽・パンドラの箱(太宰)

新樹の言葉(太宰)

それから

明暗

こころ

痴人の愛

惜みなく愛は奪う

暗夜行路

にごりえ・たけくらべ

ヰタ・セクスアリス

風立ちぬ・美しい村



浮雲

一握の砂・悲しき玩具

或る女

藪の中

破戒


でした。

 当記事を読んでいただいた方はご存知でしょうが、『斜陽』からの引用モノローグが多かった小太郎くん。
 それも納得、『斜陽』を2種類持っていたとは。

 ちなみにこれらの本のうち、『一握の砂』『こころ』『惜みなく愛は奪う』『ヰタ・セクスアリス』、そして今回の『風立ちぬ』がサブタイトルに使われています。

 残り3話のサブタイは、この本の中から選ばれるのかな…繰り返しだけれどぼくはサヨナラエンドが希望なので、最終回が『惜別』だったら…



10話


 10話目は茜ちゃんが告白されているのを見るやら嫉妬するやら接吻するやらで、太宰の太の字も出てきませんでした。
 サブタイが、これまで一番引用してきた作品『斜陽』だったのですが。

 10話目に出てきた太宰作品は無し。 



11話


1、「何もしないさきから、僕は駄目だときめてしまうのは、それあ怠惰だ」

 『みみずく通信』から。
 「何をしても駄目だったから、作家になった」と言う太宰に対して、学生の一人が「じゃ僕なんか(作家になるのに)有望なわけです」と洒落交じりに返答します。
 それに対して太宰は、君は今まで何も失敗していない、と否定して続けるセリフがこの言葉です。

 なお、この回の小太郎くんは勉強を頑張っていますが、『みみずく通信』でも太宰は学生に「勉強し給え」と諭しています。
 

2、「私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ」

 ご存知、『走れメロス』から。メロスが挫けかかった後の一文ですね。

 11話目に出てきた太宰作品は『みみずく通信』『走れメロス』。



12話(最終話)


1、「恥の多い生涯を送って来ました」

 有名な『人間失格』から。
 受験に落ちて、この引用。ちょっと笑ってしまいました。

 この一文は有名ですが、個人的には『人間失格』冒頭の文章ではないと思っています。
 『人間失格』にははしがきがあって、そのはしがきも創作で・入れ子構造になっていると思うので…「第一の手記」の冒頭です。


2、「怒濤に飛び込む思いで愛の言葉を叫ぶところに、愛情の実体があるのだ」

 『新ハムレット』から。
 これまで引用されていなかった小説が最後に出てきた。

 太宰はこの作品について、「やはり作者の勝手な、創造の遊戯に過ぎないのである」と書いています。またできるなら再読してほしい、とも望んでいます。
 本人は「LESEDRAMA ふうの、小説だと思っていただきたい」=レーゼドラマ・脚本形式の文学作品、と位置付けています。

 「本当に愛しているならば、無意識に愛の言葉も出るものだ」「たった一言でもよい。せっぱつまった言葉が、出るものだ」。

 小太郎くんが引用したセリフの後には、こんな言葉が続きます。

 小太郎くん否・安曇治(このPN…)が書いた「どんな遠くに離れたとしても、僕の気持ちは変わらないって伝えたい」が、「せっぱつまった言葉」だったのかもしれませんね。

 12話目に出てきた太宰作品は『人間失格』『新ハムレット』。



※文章は全て、青空文庫から引用しています。










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