ネタバレあり・映画『君の名は。』感想・レビュー [映画感想・実況]
新海作品への印象が変わるか
新海誠監督の新作映画『君の名は。』を見てきました。
はじめに書いておくと、ぼくは新海作品には魅力を感じつつも、一種の忌避感というか、「嫌悪感」は言い過ぎだけれども、微妙な感情を持っていました。
ちょっとこの感情を、他者に伝えるのが難しいのですが…
ぼく、新海監督と同世代なんですよ。
その同世代のおじさんがね、1・2作ならいいけれども、何作も近くて遠い淡い恋愛を描き続けることに、やっぱりちょっと悪寒を感じるわけですよ。「いつまで初恋を」とね。
昔、富野×新海監督対談で、富野から「(『ほしのこえ』は)ナイーブさ、弱さが魅力になっている部分が強すぎます」と指摘があったけれども。
だから例えば、今作で言うとタイトルがさ。
『君の名は。』って、おっさんのぼくの世代でも(つまりは新海監督も)リアルタイムでは知らない、「真知子巻き」が流行したらしい、携帯・スマホなんか無かった60年以上昔のすれ違いメロドラマ『君の名は』を想起させるわけじゃない?
それと同じ題名を付けるのか…というね。
本編でいうと、冒頭に「運命の赤い糸(鑑賞後だと組紐だと分かる)」が出てくるでしょ?
「うわっ。そういうの堂々と描いちゃうんだ」と思っちゃうわけなんです。
だから、『秒速5センチメートル』なんか、本当に切なくていい映画だと思うけれども、同時に「ティーンだったら夢中になっていた」と・完全に一歩引いて見ていたわけです。
そして今作品では
さて、それで今回の『君の名は。』ですが。
前半までは、かなり面白く見ていました。
繰り返し胸を確かめるシーンもコミカルだし(胸で終りなんだよなあとは言うまい)、何より「入れ替わり」が判明してから劇中曲が流れて・テンポ良く2人の「入れ替わった日常」が描かれる盛り上がりは、軽い興奮すら覚えました。
あとキャラクターでは、奥寺さんの造形が特に好みでした(CV・長澤まさみさんも良かった)。
年上で・彼氏もいそうだけれど、年下の男の子にちょっと興味を持っている感じが、コケティッシュで大変良かったですね。
ホラ最後、薬指のリングが光っても、何も不思議な感じや唐突感がないでしょ。そこまで含めて、良かった。
あと背景の美しさは、新海作品では言わずもがなだね。
さて物語が進み、瀧と奥寺さん、司は旅に出るわけですが、この「ないかもしれない記憶」を探す旅の描写も面白かった。
1回のデートで切れたと思っていた奥寺さんが同行したり、その奥寺さんと司がガツガツ食っていたり(この2人がくっつくのかと思った)。
そしてこの旅で、1つの事実が判明します。起承転結の「転」に当たる部分が動き出します。
SFテイストでコメディタッチの恋愛ものと見せておいて、シリアスな事実が走り始めるわけです。
ありきたり…というか、ほとんど事前情報に触れていなかった『君の名は。』は、ぼくのざっくりとした印象は「先達の『転校生』だよね」だったのが、そこにもう1つ「あ、タイムスリップもあったのか」と。
ここら辺の魅力については、こちらのブログの記事が簡潔に書かれています。
見終えた後から思うと、あれほど名前を忘れてしまったのに、死亡者名簿を見た時は都合良く覚えていたね、と思うけれども。そこはともかく。
さらに期待は高まりました。先が読めないからです。
これからどう展開するのだろう、『ゴースト』的な話になるのか、いや新海監督なら「一度も会ったことのない少女」を胸に宿しながら生きるエンドもありえるぞ…と想像しながら。
そう、この少年少女は1度も出会ってない(実は三葉が会いに行っていたが)のに恋に落ちている、という物語なんですよ。
ぼくはいつものように、「うわっおっさんがどれだけロマンチックな話を作っているんだよ」と思いつつも、そのひねくれた思いをねじ伏せるだけの展開があった訳です。
ところがここから、ぼくにとっては雲行きが怪しくなります。
物語の方向はそちらに
三葉を助ける、という方向に物語は舵をきります。
え……
予想できなかった「隕石が分裂してまちに落ちる」も、天災ですよね。大災害です。
災害って、夢も希望も将来も・もちろん愛も、全てを飲み込むものでしょ。それを「愛と不思議な力をきっかけに回避する」は、少なくともぼくは、現在発表された作品においてはそれをフィクションとして割り切って楽しむことはできませんでした。
あー腹立つ。愛は地球を救うだね(爆笑)。なんやかんや言われても、あの番組が長年続く理由も分かるわ。みんな好きなんだ。
— 坂井哲也 (@sakaitetsu) 2016年8月29日
見終わった直後に、腹立ちにまかせてこう呟いてしまったけれども。
我ながら思慮に欠けた汚いツイートですなあ。まあこの程度の人間だから仕方ない。
「いつまでも消えない恋」、有名な歌の歌詞を借りるなら・浅い夢を描き続けるのは、好き嫌いは別として理解できた。
でもお互いの存在=半身を探す・つまりは激しい恋愛をしつつ、その恋愛と不思議な力によって災害も救いましたってされちゃうと…
そうなるともう、ぼくとは「災害」の認識が違うのか、それとも「恋愛」への重きが違うのか、何にしろ急激に理解の範疇外になりました。
実際物語としても、絶賛・肯定の方達でも、ここから先はやや退屈になったのではないでしょうか。
2人の奮闘は、成功するしかないからです。
発電所を爆破していいのか、とか、リアリティみたいな話はすでにぼくにはどうでも良くなっていました。
災害ってこんなので回避できるものだったのか…
ぼくは完全に醒めていました。
ただ最後、2人が互いを認識する…まあロマンチックに書こうか、「出逢う」のかという点では、興味を持続して見ることができました。
「タイトルからして『君の名は』って言って終るよな」と想像はできたのですが、新海監督はひょっとして『秒速』のパターンを繰り返すのか、ともふと脳裏をよぎりました。
ですからその点のみにおいて、視聴意欲は持続していました。
そういや最後に。
終盤でちょっと笑ったのは、2人が1回、橋ですれ違うところです。
あそこはやっぱり、『君の名は』の数寄屋橋のシーンに、敬意を払ったのかなあ。
翌日追記
昨日ブログでは省いたけれど、えー、ネタバレしないように書くと。
— 坂井哲也 (@sakaitetsu) 2016年8月30日
物語が変化するきっかけの出来事、どうしてあんなに大きなことにしたんだろうね。
話を進めるだけなら、もっと小さな・個人的な出来事でも良かったはずだよね(もしそうだったら、俺素直に泣いていたかもしれん)。
— 坂井哲也 (@sakaitetsu) 2016年8月30日
やっぱり物語を盛り上げるためには、映画としてはあのくらいのものを用意しないと持たないってことなんだろうか。それとも現実での出来事を、形を変えて描きたかった…はないよね?
— 坂井哲也 (@sakaitetsu) 2016年8月30日
やっぱりエンタテイメントの映画として、あのくらいの出来事が必要だったのかな。
ツイッターではネタバレしないようにこのように書きましたが、早い話が隕石落下で何百人も亡くなる、ですよ。
ミもフタもなく書けば。
話の本筋だけで考えると、瀧(と三葉)が結果に干渉可能な原因で三葉が退場すれば良いわけで、交通事故にあったでも家が燃えて亡くなったでも問題ないわけです。
それを隕石落下で多くの人が亡くなる=多くの人を救うにしたのって、何かなと思って。
「このくらいの大きな事件じゃないと見せ場にならない」みたいな考えなのかな。
まあ『雲のむこう、約束の場所』では、北海道を閉鎖しちゃっていたんで、案外大掛かりな仕掛けがお好きなのかな、とも思うけれども。
そういや札幌での同作上映後インタビューでは、観客から監督に「札幌はどうなったんでしょう」って笑いを誘う質問が出たはずだけれど…。当時はシネコンではなく、単館上映だったよなあ。
話がそれた。
もしぼくが、あの「大災害だけれど人的被害はゼロ」でもOK・大絶賛だったとしても、あの設定のせいでやっぱり「玉に瑕」は生まれている訳でしょ。
例えば発電所爆破してもお咎めなしなの? とか、控えめな性格のはずのあの子が犯罪と分かっていても手を貸すんだ(友情って素晴らしい!)とか。
当然そんな不都合は承知していたはずで、それでもあの大掛かりな災害を描きたかった動機って、なんだったんだろうな。
ぼくは実は、これまで書いたように「映画を盛り上げるため」はもちろん、現実の出来事を形を変えて描きたかったのかな、とも思ってはいるんだよね。
だからこそ、理想的すぎる展開(結果)に醒めていったわけですが…

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こんにちは。
感想拝見させていただきました。
確かにこの映画は、ストーリー的にいえば最高傑作と言えるか怪しいです。
でもそう思いながらも不思議な感情になりながら泣いてしまいました。
そのような感情になった理由をずっと探っており、自分なりにまとめてブログに書いてみました。
よろしければご覧ください。
by matto (2016-09-03 18:39)
matto様、コメントありがとうございました。
記事拝見しました。
私が「催眠状態」にかからなかったのは、「朝日にも夜景にも心動かされない人間」だからですかね。
…まあそれはともかく、そもそも新海作品では背景や作画が美しいのは当然、という前提があるせいで(非常に高いハードルですが)、私の関心がそこにあまり向かなかったのはあるかもしれません。
by 坂井哲也 (2016-09-05 11:02)
返信ありがとうございます。
そして、ブログを閲覧していただいてありがとうございます。
坂井さんの返信をみて新たに気づいたのですが、坂井さんのような冷静に分析できる方の場合、「映像美」「音楽」「ストーリー性」をすべて個々として評価することができます。
そうすると、「映像キレイ―」→「感動」→「ストーリーもいいなー」 のような単純なトリックにひっかからないのかもしれませんね。
by matto (2016-09-05 12:52)
君の名はと言うタイトルは初代ゴジラが興行収入で敗れた実写映画のタイトルをシンゴジラと同時期に公開されるアニメに持って来たのでしょう。シンゴジラと君の名は裏表の関係で両方共東日本大震災が裏のテーマになっています。圧倒的絶望からの逆転という図式も同じです。なにせシンゴジラはアメリカから核攻撃を受ける寸前だし君の名はヒロイン死んでるし状態なわけですから。君の名はがゴジラに再び勝利するだろうことを何かの因縁のようにネットで囁いている方もいるみたいですけど東宝の完全なる計算通りだったと思います
by sketch (2016-09-09 05:11)
勝つ方を後から出すというのが解りやすいくらいの東宝戦略。シンゴジラが社会的ブームを巻き起こすほどの大ヒットを記録していることが連日報道されまくっていたわけでその社会現象について多くの評論家が分析コメントを上げて来ました。それがシンゴジラの人気を更に加速させたわけです。もし同時公開していたら君の名はの方にだけ注目が集まりシンゴジラのヒットが霞んでいたことでしょう。逆に後から出すことによって社会的大ブームを巻き起こしているシンゴジラを圧倒的スピードで追い上げる化物アニメとしてシンゴジラが持ち上げられていた以上に一般を驚かせるのは必然。東宝内部では両作をどうプロモーションすべきかの計算が緻密に練られていたのでしょうね。自分には年末にRADWIMPSが君の名はの主題歌を紅白の目玉として歌ってる姿が目に見えるようです。そして審査員席には新海監督が座ってるとwそれで話題を集めた上でBD発売のスケジュール。お見事東宝と言わざるを得ません
by sketch (2016-09-09 05:23)
sketch様、コメントありがとうございます。
もちろん両方の作品の公開時期は練られているでしょうが、どこまでが計算なのか正直私には分かりません。
そもそもゴジラも直近5作は12~29億の興行収入なわけで、もちろんそれよりのヒットは期待していたでしょうが、ここまでのヒットを想定していたのかと言われると個人的には疑っています。
確かに裏テーマは両作重なっていますが、そもそも「ヒット作」として比べることができるかも不測だったのではと思います。
by 坂井哲也 (2016-09-09 20:18)
お返事ありがとうございます。シンゴジラの庵野監督のエヴァンゲリオン最新作の興行収入は52億6737万3350円でしたからシンゴジラはこの数字はクリアすると東宝の方は予想出来ていたと思われます。また君の名はで東宝シンデレラの長澤まさみさんや上白石萌音さんが声優を務めているので大ヒットを確信した上での起用でしょう。上白石萌音さんは10月にメジャーデビューミニアルバム「chouchou」を出されるのですが、その中で君の名はに使われているRADWIMPSの「なんでもないや」をカバーしています。この曲は満員御礼の舞台挨拶にRADWIMPSが飛び入り参加しハプニングとして上白石萌音さんと一緒に歌っている映像が芸能ニュースで取り上げられていましたがもちろんハプニングでもなんでもなく上白石萌音さんのミニアルバムのプロモーションでしょう。さすが東宝、余り駒無しの詰将棋のように見事に詰みあがった構図は見事です。年末の紅白にはシンゴジラと上白石萌音さんにも出て頂きたいですね
by sketch (2016-09-10 02:37)
ちなみに自分はシンゴジラも君の名はも非常に楽しく拝見したのでアンチではありません。それと東宝に恨みを持っているわけでも嫌っているわけでもなく逆に東宝を作られた小林一三氏を尊敬すらしておりますので、何だかアンチ的な書き込みになっているように思われたら本当に申し訳ないなと思います。陰謀論大好き人間なので糸と糸を結び合わせて不可思議な陰謀世界を作ってみたというだけのことでした。せっかくのブログのコメント欄を混乱させるような書き込みをしてしまってすみませんでしたm(_ _)m
by sketch (2016-09-10 02:46)
sketch様、意見は興味深く読ませていただきました。全然謝っていただく必要はありません。
ちなみにこの記事は、どちらかと言うと「君の名は。」に否定的なので、アンチよりはむしろファンの方に怒られる方が怖いのですが(笑)
by 坂井哲也 (2016-09-10 16:51)