久しぶりに見たガンダム3話「敵の補給艦を叩け!」がやっぱり凄かったので、一々説明する。 [富野監督関係]
あのー、こんばんわ。
娘がお遊戯会で、「機動戦士ガンダムを演奏する」って言うんですよ。
あ、歌のタイトルは違うだろ! って野暮な突っ込みはなしですよ。
で、幼稚園では歌しか聞いたことがないので、「絵がついたガンダムを見てみたい」とおっしゃる訳です、娘が。
DVDは持ってないんで、LDを部屋の隅から引っ張り出して、見せたんです。
OPを見るだけなんで、適当に選んだら第3話。「敵の補給艦を叩け!」の回でした。
OPが終っても、結局見ちゃった。やっぱすげえわ。
えーと。全部のシーンに、意味があるの。「物語を進めるだけ」の場面がない。
ちょっと怖いくらいに、すごい。
だから、ぼくなりに説明してみますね。セリフは100%正確ってわけではないので、ご容赦を。
では、最初から順番に見ていきます。
・初めはルナツーに向かう場面。
負傷しているパオロ・カシアス艦長が、「私の名前でルナツーに寄港しろ」とブライトに命令する。
この時点で、ブライトはまだ(当然だけど)実力不足、お飾りであることが分かる。
・食事などの物資を配るフラウと子ども達
避難民は「先ほど頼んだ物資は…」「ルナツーにはいつ着く?」などと口々に聞きます。
避難民が多く、そしてクルーの数は少ないのが伝わります。また自らも戦おうとする人間が少ないのも分かりますね。たったこれだけのやりとりで。
・エレベーターに乗るブライトとセイラ
「サイド7に来る前はどこにいたんです?」
「答える必要あるのかしら」
ブライト、宇宙に出るのが初めてだったと話す。セイラ、「エリートでいらっしゃたのね」
さらに「弱気は禁物でしょ、ブライトさん」
まあつまり、これってブライトがちょっとセイラさんにちょっかい出したってことでしょ。
同じ地球出身と分かって、共通項を見つけた、みたいな。
でもセイラさんは冷たくはねのける。セイラとブライトの心的距離、セイラの性格、頼りないブライト、様々な事柄が短い会話で示されます。
さらに「地球にいることがエリート」という舞台設定も判明します。そしてセイラはおそらく、宇宙出身ということも分かりますね。
・ブライトに声をかけるミライ
「時間の問題だと思うんですけど」
「時間?」
「シャアの攻撃」
この回では、これでもかと言わんばかりにブライトの無能さがチクチク提示されます。
のちの名艦長も、まだキャリアの序盤ですからね。
・ドズルとシャアの補給のやりとり
「パプア補給艦? あのような旧型では…」と抗議するシャア。これが、後に旧ザクが登場しても視聴者がすんなりと受け入れられる、いわゆる伏線ってヤツですね。
補給云々は、田中芳樹さんがガンダムの魅力としてあげていたところ。
当時のロボットアニメでは、「なぜか敵は1体ずつ攻め込んでくる」というお約束がありました。
ガンダムでも、ジャブロー攻防戦やア・バオア・クーでの最終戦など大規模な戦闘を描くことももちろんありましたが、基本的には実は、同じお約束を踏襲しています。1体ではなく2・3機ずつだけど。
しかしガンダムが違ったのは、「なぜ敵は物量戦を仕掛けてこないのか」、ちゃんと説明されていたこと。
その説明こそが、この会話なのです。
そしてドズルとシャアのやりとりから、かつてはジオンが優勢だったが、今では補給線が細くなって、MS・人員共に不足していることが判明します。
わずか数十秒の会話で、たくさんの情報が詰まっています。本当に匠の技ですね。
・アムロとフラウのやりとり
幼馴染だったアムロとフラウの感情がすれ違い始めています。
またブライトとアムロの関係についても、フラウの口から言及されます。
・ホワイトベース(以下WBと表記)ブリッジで、ブライトとミライさんが「なぜシャアが追ってこないのか」を推測する
「武器を使い果たしているということも考えられるわね」とズバリ言い当てるミライさんに対し、
「WBの性能が読めないからだろう」
「こちらを油断させる作戦なのかもしれん」
口調は偉そうだが、ことごとく的外れな意見を言うブライト。
シャアはWBの性能が読めないからこそ、戦力を補給して攻撃を仕掛けたい訳だが…
本当にこの回では、アホになっているブライト。
つまり第3話は、ブライトに焦点を当てた回とも言えます。指揮官の役をしている男も、まだ少年なのです。
オペレーターが、ムサイに近づく敵艦があることを告げます。
「ミライの推測が当たったんじゃなくて?」
傷に塩を塗り込むようなセリフを吐くセイラさん。
「軽率には言えんな」とブライト。スタッフ、これ以上ブライトをいじめないで!
ちなみにこの一連のシーンにおける鈴置さんの演技、絶品です。
特に「こちらを油断させる作戦なのかもしれん」とエラソーに言うところ、演出意図がはっきり伝わる名演です。
アホに否定されたセイラさんは、当然面白くない顔をします。
これは、先ほどのエレベーターでのやりとりにおける、ブライトの軽い抵抗もあるのでしょう。
小さい男だぞ、ブライト!
先制攻撃を提案するミライさん。
「攻撃に出ろと言うのか?!」
声を荒げるブライト。
「(パオロ)艦長に聞いてみたら?」
S気質全開のセイラさん。この慇懃無礼な口調、井上瑤さんも最高です!
さすがのブライトもバカにされていることに気付いて、怒った口調になります。
意見を求められ、柔道に例えて答えるハヤト。
ただの会話に終らせず、「ハヤトは柔道をやっている」というキャラ設定を、さりげなく挟み込んでいます。
・ブリッジに集められる戦闘可能な乗員。
ルナツーに逃げ込むか、打って出るか、多数決で決めます。
そうです、多数決で決めるんですよ! そんなバカな軍艦がありますか?
このシーンで素晴らしいことは2点。
まず、戦闘における重要な決定を多数決で決める、つまりはブライトのリーダーシップの欠如、そして「軍艦」としてWBが機能していないことを表している点。
そしてもう1つは、ミライさんの先制攻撃提案から、各キャラの短いセリフの応酬で、視聴者に「多数決を取る」ことへの違和感を覚えさせない点。
実際、何の疑問も感じずに見過ごしていらっしゃった方も多いと思います。
また、ここでの各キャラの「手の上げ方」も上手です(偉そう、ぼく)。
はっきり手と上げるハヤトとリュウ、ミライさん。ブライトに背を向けたまま挙手するセイラさん、周囲の反応を見るカイ、アムロばかりを見ているフラウ。
素晴らしいです。これが「群像」ですね。
・出撃するリュウとアムロ
敵が目視できる8分の間に、手引書を読むようクルーに伝えるブライト。
小まめに、WBが「素人の寄せ集めであること」を描写します。
「ただし、ガンダムとコアファイターには当てるな!」
・接触するムサイとパプア
「赤い彗星が補給を欲しがるとはな。ドジをやったのか?」
短いセリフで、シャアがキレ者であることを視聴者にアピールします。
またガデムの方が明らかに年長ですが、シャアとガデムは対等に話しています。
つまり2人は少なくとも同じ階級、あるいはシャアの方が上だと推測できます。
視聴者は会話だけで、「軍隊」だと意識できます。
多数決を取っている素人の集まりと、明らかに比較して描写しています。
・補給を開始するパプア、接近するガンダムとコアファイター
先行するリュウに、太陽を背にして戦うよう指示を出すアムロ。
一番頼りになりそうなリュウでさえ、素人のアムロにアドバイスされる始末です。
逆にアムロは、主人公としての価値が生まれています。
逆光で映し出されるムサイとパプアの絵は、美しいです。
素晴らしいカットだと思います。
ミノフスキー粒子の濃度が濃いことを気にするシャアとガデム。
このたった1つのやり取りで、シャアだけではなく、ガデムも強敵だと伝わります。
・ガンダムが攻撃。戦闘開始。
迅速に行動するガデムとシャア。プロの動きです。
一方。WB側は。
Aパートはブライトのダメさ加減が描写されましたが、Bパートの餌食はリュウです。
リュウは自由に動いて、WBから「援護できない」と苦情が出る始末。
また「プロ」と「素人」の対比です。
戦闘シーンは、シャアの格好良さを際立たせています。
シャアは、ガンダムが放ったバズーカの弾をザクマシンガンで撃ち落とそうとします。
初弾は失敗し、次は迎撃に成功することで、リアリティが生まれています。
まあ全部シャアが打ち落しちゃったら、パプアを沈められないって都合もあるでしょうけれど。
・アムロ対シャア
「モビルスーツの性能の差が…」みなまで語る必要のない名セリフも生まれます。
「ブライトと約束したんだ。ぼくがシャアを引きつけておくってな!」
・WBの様子
ブリッジと連絡を取るのにも、マニュアルを見るハヤト。
ここで主砲のエネルギー充填を終えたムサイが、WBに向けて回頭を始めます。
一方、WBのブリッジでは、ブライトがミライに「(ムサイは)補給作業中だったらまずメガ砲は使えないな」などと楽観的なことをほざいています。
読みが全く当たりません。
無線の回線を切っているリュウ。
全員素人です。
・アムロ対シャア
コクピットをパンチしても、ショルダータックルをしても、蹴ってもダメージを与えられないシャア。
「ええい、連邦軍のモビルスーツは化け物か!」
渋い声色で、ガンダムがどれだけすごいか、テレビの向こうのちびっ子に伝えます。
ガンダムスゲー!
「ザクだけでも手に入れねばならん!」
補給の重要性もアピール。当時のアニメで、これは画期的だったんですよ。
ハヤトがガンタンクの出撃を、ブライトに提言。
出撃準備に入ります。
ここでムサイの主砲が、WBを襲います。
焦るブライト。
インカムに「カイ、ハヤト、ガンタンクはどうした! 砲撃を! 砲撃を!」と怒鳴ります。
ガンタンク出撃を提案したのはハヤトなのに、早くもそれを当てにするとは。
やはりダメなブライト。
ミライさんが「ブライトさん、落ち着いて下さい。ガンタンクは今ホワイトベースから出るところなんです」と言って、出撃のサポートに入ります。
誰が艦長だ?
ミライさんは冷静で、他の人の動きもフォローできています。
ここまで来ると、ブライトがダメ男なだけではなく、ミライさんってすげーんじゃね? という感じになってきます。
後に続く伏線ですよね、ここも。
しかしミライさん、よくブライトと結婚したな。
というか、ブライトは凄い伸びしろがあったんだな。
・カイ&ハヤト、ガンタンク出撃
あと50M近づくよう伝えるハヤトに対し、
「ミサイル撃ってきたらどうするんだよ?」とカイ。
「補給中ですから、撃ってこないと思います」
「撃ってきたらどうするんだよ!」
「分かりません」
結局あと10Mのところで、パプアから発進したザクを見たハヤトは、我慢できずに撃ってしまいます。
初陣の恐怖感や焦りが伝わってくる描写ですよね。
本当に上手だなあ、と感心するばかりです。
しかもこのザク、補給物資だから無人なんですよね。
多分、ハヤトと同じように「敵パイロットが乗っているザクだ」とミスリードされた視聴者もいるでしょう。ニクイ演出です。
・旧ザク出撃、パプア沈む。シャアザクが戻る。
太陽を背に、迫ってくるガンダム。しかもBGMが、敵が迫ってくる時の音楽。
視聴者は、「ジオン側視点」に立つように誘導されています。
だから、後の旧ザク撃破が、映えて見えるのでしょう。
そして例の、旧ザクのショルダータックル。
シャアは「やめろ、ガデム! 貴様のザクでは無理だ!」と叫びます。
そうです、ガンダムはさっき、シャアザクの攻撃にも耐えたのです。
だから視聴者は、旧ザクの体当たりがガンダムに効くのか、すでに答えを知っています。
ああ、凄いですね。
最初のガンダムVSシャアザクは、後のガンダムVS旧ザクの伏線になっているのです。
わざわざ同じくショルダータックルをさせて、同じくコクピットを攻撃させる分かりやすさです。
緻密な計算がされていると分かりますね。
・素人め、間合いが遠いわ!
富野って、確かなんかの小説の後書きでも「ええいっ、間合いが、遠いっ!」って書いていたな。いや、そんな話はどうでも良くて。
ガデムはビームサーベルをかわし、ガンダムの懐に入る。
技量はガデムの方が上、しかしMSの性能は圧倒的にガンダムが上。
この勝利の仕方は、後のランバ・ラルの名台詞(君に負けたのではない)に繋がっていきます。
・ガンダム撤退、シャア独り言
「パプアがやられ、ガデムも死んだ。どういうことなのだ?
モビルスーツにしろ、あの艦にしろ、明らかに連邦軍の新兵器の高性能の前に敗北を喫した。それは分かる。
しかし、一体どういうことなのだ? 連中は戦法も未熟なら、戦い方もまるで素人だ」
今回のテーマ=WBが素人の集まり、をさらっと視聴者に伝えるシャア。
作劇上、悪役は便利ですね。
・WBブリッジ
調子に乗るカイを、「アムロのお陰だ」とたしなめるブライト。
しかし現れたアムロ本人には、「君は敵の向こうに回り込みすぎだ」と叱る。
ツンデレですね。そして、アムロに対する複雑な感情が表現されてもいます。
最後、リュウに説明する形で、ハロの紹介。
終りです。いかがでしたか。
脚本・演出・声優・作画、全てが組み合わさった匠の技を堪能できたのではないしょうか。
やっぱり、素晴らしい作品ですね。
あー、そう言えば。最近あるイベントで、「富野の演出は下手」って言ってたアニメ関係者(元?)がいたらしいですね。
その人が関わったアニメって、なんだっけ? すごく上手な演出なんだろうなあ。
ちなみに、富野の欠点として「物語の構成が弱い」とかの指摘は以前からあるし、時おりちょっとだけ書くように「小説家・富野」についてはぼくも否定的だけど、「演出が下手」は初めて聞いた気がするわ。
富野がダメなら、どういうのが上手なアニメ演出なのか、ぜひその方に聞いてみたい。
もちろん「チャー研」の中から、提示してほしいね。
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娘がお遊戯会で、「機動戦士ガンダムを演奏する」って言うんですよ。
あ、歌のタイトルは違うだろ! って野暮な突っ込みはなしですよ。
で、幼稚園では歌しか聞いたことがないので、「絵がついたガンダムを見てみたい」とおっしゃる訳です、娘が。
DVDは持ってないんで、LDを部屋の隅から引っ張り出して、見せたんです。
OPを見るだけなんで、適当に選んだら第3話。「敵の補給艦を叩け!」の回でした。
OPが終っても、結局見ちゃった。やっぱすげえわ。
えーと。全部のシーンに、意味があるの。「物語を進めるだけ」の場面がない。
ちょっと怖いくらいに、すごい。
だから、ぼくなりに説明してみますね。セリフは100%正確ってわけではないので、ご容赦を。
では、最初から順番に見ていきます。
・初めはルナツーに向かう場面。
負傷しているパオロ・カシアス艦長が、「私の名前でルナツーに寄港しろ」とブライトに命令する。
この時点で、ブライトはまだ(当然だけど)実力不足、お飾りであることが分かる。
・食事などの物資を配るフラウと子ども達
避難民は「先ほど頼んだ物資は…」「ルナツーにはいつ着く?」などと口々に聞きます。
避難民が多く、そしてクルーの数は少ないのが伝わります。また自らも戦おうとする人間が少ないのも分かりますね。たったこれだけのやりとりで。
・エレベーターに乗るブライトとセイラ
「サイド7に来る前はどこにいたんです?」
「答える必要あるのかしら」
ブライト、宇宙に出るのが初めてだったと話す。セイラ、「エリートでいらっしゃたのね」
さらに「弱気は禁物でしょ、ブライトさん」
まあつまり、これってブライトがちょっとセイラさんにちょっかい出したってことでしょ。
同じ地球出身と分かって、共通項を見つけた、みたいな。
でもセイラさんは冷たくはねのける。セイラとブライトの心的距離、セイラの性格、頼りないブライト、様々な事柄が短い会話で示されます。
さらに「地球にいることがエリート」という舞台設定も判明します。そしてセイラはおそらく、宇宙出身ということも分かりますね。
・ブライトに声をかけるミライ
「時間の問題だと思うんですけど」
「時間?」
「シャアの攻撃」
この回では、これでもかと言わんばかりにブライトの無能さがチクチク提示されます。
のちの名艦長も、まだキャリアの序盤ですからね。
・ドズルとシャアの補給のやりとり
「パプア補給艦? あのような旧型では…」と抗議するシャア。これが、後に旧ザクが登場しても視聴者がすんなりと受け入れられる、いわゆる伏線ってヤツですね。
補給云々は、田中芳樹さんがガンダムの魅力としてあげていたところ。
当時のロボットアニメでは、「なぜか敵は1体ずつ攻め込んでくる」というお約束がありました。
ガンダムでも、ジャブロー攻防戦やア・バオア・クーでの最終戦など大規模な戦闘を描くことももちろんありましたが、基本的には実は、同じお約束を踏襲しています。1体ではなく2・3機ずつだけど。
しかしガンダムが違ったのは、「なぜ敵は物量戦を仕掛けてこないのか」、ちゃんと説明されていたこと。
その説明こそが、この会話なのです。
そしてドズルとシャアのやりとりから、かつてはジオンが優勢だったが、今では補給線が細くなって、MS・人員共に不足していることが判明します。
わずか数十秒の会話で、たくさんの情報が詰まっています。本当に匠の技ですね。
・アムロとフラウのやりとり
幼馴染だったアムロとフラウの感情がすれ違い始めています。
またブライトとアムロの関係についても、フラウの口から言及されます。
・ホワイトベース(以下WBと表記)ブリッジで、ブライトとミライさんが「なぜシャアが追ってこないのか」を推測する
「武器を使い果たしているということも考えられるわね」とズバリ言い当てるミライさんに対し、
「WBの性能が読めないからだろう」
「こちらを油断させる作戦なのかもしれん」
口調は偉そうだが、ことごとく的外れな意見を言うブライト。
シャアはWBの性能が読めないからこそ、戦力を補給して攻撃を仕掛けたい訳だが…
本当にこの回では、アホになっているブライト。
つまり第3話は、ブライトに焦点を当てた回とも言えます。指揮官の役をしている男も、まだ少年なのです。
オペレーターが、ムサイに近づく敵艦があることを告げます。
「ミライの推測が当たったんじゃなくて?」
傷に塩を塗り込むようなセリフを吐くセイラさん。
「軽率には言えんな」とブライト。スタッフ、これ以上ブライトをいじめないで!
ちなみにこの一連のシーンにおける鈴置さんの演技、絶品です。
特に「こちらを油断させる作戦なのかもしれん」とエラソーに言うところ、演出意図がはっきり伝わる名演です。
アホに否定されたセイラさんは、当然面白くない顔をします。
これは、先ほどのエレベーターでのやりとりにおける、ブライトの軽い抵抗もあるのでしょう。
小さい男だぞ、ブライト!
先制攻撃を提案するミライさん。
「攻撃に出ろと言うのか?!」
声を荒げるブライト。
「(パオロ)艦長に聞いてみたら?」
S気質全開のセイラさん。この慇懃無礼な口調、井上瑤さんも最高です!
さすがのブライトもバカにされていることに気付いて、怒った口調になります。
意見を求められ、柔道に例えて答えるハヤト。
ただの会話に終らせず、「ハヤトは柔道をやっている」というキャラ設定を、さりげなく挟み込んでいます。
・ブリッジに集められる戦闘可能な乗員。
ルナツーに逃げ込むか、打って出るか、多数決で決めます。
そうです、多数決で決めるんですよ! そんなバカな軍艦がありますか?
このシーンで素晴らしいことは2点。
まず、戦闘における重要な決定を多数決で決める、つまりはブライトのリーダーシップの欠如、そして「軍艦」としてWBが機能していないことを表している点。
そしてもう1つは、ミライさんの先制攻撃提案から、各キャラの短いセリフの応酬で、視聴者に「多数決を取る」ことへの違和感を覚えさせない点。
実際、何の疑問も感じずに見過ごしていらっしゃった方も多いと思います。
また、ここでの各キャラの「手の上げ方」も上手です(偉そう、ぼく)。
はっきり手と上げるハヤトとリュウ、ミライさん。ブライトに背を向けたまま挙手するセイラさん、周囲の反応を見るカイ、アムロばかりを見ているフラウ。
素晴らしいです。これが「群像」ですね。
・出撃するリュウとアムロ
敵が目視できる8分の間に、手引書を読むようクルーに伝えるブライト。
小まめに、WBが「素人の寄せ集めであること」を描写します。
「ただし、ガンダムとコアファイターには当てるな!」
・接触するムサイとパプア
「赤い彗星が補給を欲しがるとはな。ドジをやったのか?」
短いセリフで、シャアがキレ者であることを視聴者にアピールします。
またガデムの方が明らかに年長ですが、シャアとガデムは対等に話しています。
つまり2人は少なくとも同じ階級、あるいはシャアの方が上だと推測できます。
視聴者は会話だけで、「軍隊」だと意識できます。
多数決を取っている素人の集まりと、明らかに比較して描写しています。
・補給を開始するパプア、接近するガンダムとコアファイター
先行するリュウに、太陽を背にして戦うよう指示を出すアムロ。
一番頼りになりそうなリュウでさえ、素人のアムロにアドバイスされる始末です。
逆にアムロは、主人公としての価値が生まれています。
逆光で映し出されるムサイとパプアの絵は、美しいです。
素晴らしいカットだと思います。
ミノフスキー粒子の濃度が濃いことを気にするシャアとガデム。
このたった1つのやり取りで、シャアだけではなく、ガデムも強敵だと伝わります。
・ガンダムが攻撃。戦闘開始。
迅速に行動するガデムとシャア。プロの動きです。
一方。WB側は。
Aパートはブライトのダメさ加減が描写されましたが、Bパートの餌食はリュウです。
リュウは自由に動いて、WBから「援護できない」と苦情が出る始末。
また「プロ」と「素人」の対比です。
戦闘シーンは、シャアの格好良さを際立たせています。
シャアは、ガンダムが放ったバズーカの弾をザクマシンガンで撃ち落とそうとします。
初弾は失敗し、次は迎撃に成功することで、リアリティが生まれています。
まあ全部シャアが打ち落しちゃったら、パプアを沈められないって都合もあるでしょうけれど。
・アムロ対シャア
「モビルスーツの性能の差が…」みなまで語る必要のない名セリフも生まれます。
「ブライトと約束したんだ。ぼくがシャアを引きつけておくってな!」
・WBの様子
ブリッジと連絡を取るのにも、マニュアルを見るハヤト。
ここで主砲のエネルギー充填を終えたムサイが、WBに向けて回頭を始めます。
一方、WBのブリッジでは、ブライトがミライに「(ムサイは)補給作業中だったらまずメガ砲は使えないな」などと楽観的なことをほざいています。
読みが全く当たりません。
無線の回線を切っているリュウ。
全員素人です。
・アムロ対シャア
コクピットをパンチしても、ショルダータックルをしても、蹴ってもダメージを与えられないシャア。
「ええい、連邦軍のモビルスーツは化け物か!」
渋い声色で、ガンダムがどれだけすごいか、テレビの向こうのちびっ子に伝えます。
ガンダムスゲー!
「ザクだけでも手に入れねばならん!」
補給の重要性もアピール。当時のアニメで、これは画期的だったんですよ。
ハヤトがガンタンクの出撃を、ブライトに提言。
出撃準備に入ります。
ここでムサイの主砲が、WBを襲います。
焦るブライト。
インカムに「カイ、ハヤト、ガンタンクはどうした! 砲撃を! 砲撃を!」と怒鳴ります。
ガンタンク出撃を提案したのはハヤトなのに、早くもそれを当てにするとは。
やはりダメなブライト。
ミライさんが「ブライトさん、落ち着いて下さい。ガンタンクは今ホワイトベースから出るところなんです」と言って、出撃のサポートに入ります。
誰が艦長だ?
ミライさんは冷静で、他の人の動きもフォローできています。
ここまで来ると、ブライトがダメ男なだけではなく、ミライさんってすげーんじゃね? という感じになってきます。
後に続く伏線ですよね、ここも。
しかしミライさん、よくブライトと結婚したな。
というか、ブライトは凄い伸びしろがあったんだな。
・カイ&ハヤト、ガンタンク出撃
あと50M近づくよう伝えるハヤトに対し、
「ミサイル撃ってきたらどうするんだよ?」とカイ。
「補給中ですから、撃ってこないと思います」
「撃ってきたらどうするんだよ!」
「分かりません」
結局あと10Mのところで、パプアから発進したザクを見たハヤトは、我慢できずに撃ってしまいます。
初陣の恐怖感や焦りが伝わってくる描写ですよね。
本当に上手だなあ、と感心するばかりです。
しかもこのザク、補給物資だから無人なんですよね。
多分、ハヤトと同じように「敵パイロットが乗っているザクだ」とミスリードされた視聴者もいるでしょう。ニクイ演出です。
・旧ザク出撃、パプア沈む。シャアザクが戻る。
太陽を背に、迫ってくるガンダム。しかもBGMが、敵が迫ってくる時の音楽。
視聴者は、「ジオン側視点」に立つように誘導されています。
だから、後の旧ザク撃破が、映えて見えるのでしょう。
そして例の、旧ザクのショルダータックル。
シャアは「やめろ、ガデム! 貴様のザクでは無理だ!」と叫びます。
そうです、ガンダムはさっき、シャアザクの攻撃にも耐えたのです。
だから視聴者は、旧ザクの体当たりがガンダムに効くのか、すでに答えを知っています。
ああ、凄いですね。
最初のガンダムVSシャアザクは、後のガンダムVS旧ザクの伏線になっているのです。
わざわざ同じくショルダータックルをさせて、同じくコクピットを攻撃させる分かりやすさです。
緻密な計算がされていると分かりますね。
・素人め、間合いが遠いわ!
富野って、確かなんかの小説の後書きでも「ええいっ、間合いが、遠いっ!」って書いていたな。いや、そんな話はどうでも良くて。
ガデムはビームサーベルをかわし、ガンダムの懐に入る。
技量はガデムの方が上、しかしMSの性能は圧倒的にガンダムが上。
この勝利の仕方は、後のランバ・ラルの名台詞(君に負けたのではない)に繋がっていきます。
・ガンダム撤退、シャア独り言
「パプアがやられ、ガデムも死んだ。どういうことなのだ?
モビルスーツにしろ、あの艦にしろ、明らかに連邦軍の新兵器の高性能の前に敗北を喫した。それは分かる。
しかし、一体どういうことなのだ? 連中は戦法も未熟なら、戦い方もまるで素人だ」
今回のテーマ=WBが素人の集まり、をさらっと視聴者に伝えるシャア。
作劇上、悪役は便利ですね。
・WBブリッジ
調子に乗るカイを、「アムロのお陰だ」とたしなめるブライト。
しかし現れたアムロ本人には、「君は敵の向こうに回り込みすぎだ」と叱る。
ツンデレですね。そして、アムロに対する複雑な感情が表現されてもいます。
最後、リュウに説明する形で、ハロの紹介。
終りです。いかがでしたか。
脚本・演出・声優・作画、全てが組み合わさった匠の技を堪能できたのではないしょうか。
やっぱり、素晴らしい作品ですね。
あー、そう言えば。最近あるイベントで、「富野の演出は下手」って言ってたアニメ関係者(元?)がいたらしいですね。
その人が関わったアニメって、なんだっけ? すごく上手な演出なんだろうなあ。
ちなみに、富野の欠点として「物語の構成が弱い」とかの指摘は以前からあるし、時おりちょっとだけ書くように「小説家・富野」についてはぼくも否定的だけど、「演出が下手」は初めて聞いた気がするわ。
富野がダメなら、どういうのが上手なアニメ演出なのか、ぜひその方に聞いてみたい。
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今回の記事すごく面白くて分かりやすかったんです。ぜひブログで改めて紹介させていただきたい。
坂井さんはご存知かどうかは知りませんけれど、ミライさんと駄目なブライドの話を聞いてると、なんだかガンダムの原案を思い出しました。それによると、もともとの艦長はなんとミライさん(の原型的キャラ)だったのです。どこまで原案を意識してるのか分かりませんけれど、ひょっとしたら一部のキャラは初期では原案のイメージを引きずっているのかもしれませんね。
by KAITO2198 (2011-11-30 00:55)
KAITO2198さん、コメントありがとうございます。ツイッターでもリツイートしていただいたようで、重ねて感謝します。
>もともとの艦長はなんとミライさん(の原型的キャラ)だったのです。
知りませんでした。本当に、知らないことがたくさんあるなあー。
「ブライトのダメさを表現する」だけじゃなくて、「ミライさんの有能さを描く」意図もあるように思うんですよね、この回は。でもちょっと、「ミライさんやセイラさんもNT」の伏線、は言い過ぎだなと思ったので、ブログ記事では触れないでおきました。
まだ3話だし、原案イメージが残っていると考えた方が素直ですね。
by 坂井哲也 (2011-11-30 02:24)
先日、MXTVで放送していた『敵の補給艦を叩け』を見て、
度肝抜かれてしまい、思わず検索、そして書き込みさせていただきました。
この回、素晴らしいですよね。私の思いを代弁していただいたような、清々しい気持ちです。
今回、TVシリーズ版機動戦士ガンダムを観るのは初めてで、
本当に緻密に世界設定、群像劇を描いている事にビックリしております。
同時に同じくMXで再放送されている世界名作劇場シリーズも観ており、やはり共通項を感じずにはいられません。
短いスパンで作られるアニメの多い中、
1年を通して物語を描く演出が新鮮でたまりません。
by わくわくさん (2014-05-23 06:09)
わくわくさん、コメントありがとうございます。
初めてTV版見ているのですね。ガンダムは「敵の補給艦を叩け」以外にも良い回があるので、じっくりと名作を堪能なさって下さい。ぼくのようなおじさんにとっては、「1年を通して物語を描く演出が新鮮」という感想が新鮮でした。確かに今のアニメは1~2クールが多いですからね。
by 坂井哲也 (2014-05-23 20:42)
ガンダムは義務教育です。
by ブライトノア (2014-11-12 17:52)
義務教育期間を早く終えたいと思っていたタイプなので、なんとも…
by 坂井哲也 (2014-11-13 13:04)
初めまして。
ブライトがこの回どれだけ未熟だったかということが冷静に見えました。
やっぱり、かなり贔屓目に見てしまうものですね。
by 師子乃 (2020-04-25 17:14)
師子乃様、コメントありがとうございます。
ブライト、確かに後の「名艦長」のイメージ強いので、初期のまだ未熟だった頃の姿はあまり印象に残ってないんですよね。
by 坂井哲也 (2020-04-26 11:00)